2010年5月1日土曜日

連載コラム261 from 北海道●読書日和

私は、流行りものが苦手である。
実は、記念日もあまり好きではない。
○○記念日なるものが、当たり前に多いことに鬱陶しいと思う人間だ。
それだからか、世の中の流行にも、おいそれと同調して尻を振って
飛びつけない。
これは、ある意味で世間様に非協力的であるから、面目ない気持ち
はあるものの、やっぱり冷めている。
不景気こそ流行は必要、売れまくるものが必要なのも解っているつ
もりだが、でもねぇ、ブームで長い長蛇の列をテレビで見てしまっ
た時の私は、すっかり嫌なヤツに染まっている。
最近、眉間の縦皺が気になり出した。
夫は、「テレビに吠えてばっかりいるからじゃ」と私を罵る。
確かに一理ある。
私の不満はテレビや世の中に注がれてばかり。
ニュースに怒り、政治に怒り、そんでもって、チャンネルを切り替
えたところで、しょうもない番組にまたもや激怒。
あーあ、心穏やかに暮らしてみたいもんです。
なんて、言ってみただけで、本人にそんな気はないのだな、たぶん。
だけど、例えば流行り物が好きなんて、日本人の特徴を表している
なぁとも思うのだ。
そして、案外こんな単純で明快な行動が、日本を元気にさせること
も、ちゃんと気づいている。
だからね、流行ることに否定はしません。
きっとね、流行が好きな人は、自分もいま飛びつかなければ、損を
してしまうような気になるのでしょう。
で、その結果、飛びついてみたものの、飛びついた物が正体不明な
んてことにも、あまり気にしない。
人間の行動学からすれば、多いにあるんだろうけど、飛びついた物
を知らなくても、後で理解するのはまだましで、別にそこまでの深
みは求めていないなんて話を聞かされると、私の心はちょっと複雑かな。

最近、村上春樹さんの「1Q84 BOOK3」の発売にちな
んだニュースで、ある若者がテレビに出ていた。
彼は村上春樹を知りません。
「どんな人だと思いますか?」と質問された彼は、「まだ若いん
じゃない? 30ちょっととか」と言っていた。
でも、1Q84は既に購入済み。
で、もって、自分の仲間にも勧めちゃっている。
普段はもっぱらマンガを読むことが多いらしいけど、1Q84に
関しては別とのことだった。
驚いたのは、ヒップホップを部屋でガンガン掛けて、そんな環境で
本を読んでいること。
複数の物事を同時に進行させる能力に長けているのか、そうではな
くただのスタイルなのか、何れにしても私には不可能な技だ。
「ふうん」とちょっと不思議な気持ちだった。
それにしても、BOOK3の発売にちなんで、本の中で紹介された
音楽や料理まで注目されているのだから、さすがにベストセラーは違う。
某全国紙の書評では、BOOK3でこれまで書かれていなかったこ
とが、事細かに描写されていることを絶賛していた。
希望的観測を最後に盛り込んだことで、これまでの村上春樹とは違
う作品とのことだった。
なんだか、売れすぎて下手なことは言えない気持ちだ。
だけど、1Q84については、私の周りでは賛否両論。
私の周りでは、BOOK1と2を読んで、性描写のどぎつさに驚い
たとか、登場する宗教に関して疑問に思う声も聞かれたり、またとにかく
1Q84は購入してみたものの、実はまだ読んでいない人もいる。
さまざまである。
そんな私は、もうちょっと後になってから、この本は読んでもいい
かなと、少し冷めた気持ちだ。
村上春樹さんの本は、「ノルウェイの森」をずっと昔に読んだ。
主人公が飛行機に乗るシーン、ビートルズの曲が頭の中で響くシー
ンから物語りは始まっていたけれど、もう20年以上も前に読んだ
本を、まだちゃんと記憶しているのだから、印象深かったことは間
違いない。
ただ、文体の美しさに圧倒されながらも、登場人物の孤独、寂しさ
を感じる作品だった。
だから、「ノルウェイの森」を読み終わった私は、どこかやりきれ
なさを感じていた。
私は、あれ以降、村上春樹の本を読んでいない。

私はどちらかというと強い本が好きだ。
物語で、登場する人物の心の弱さを感じても、何かを克服していく
ストーリーが好き。
モヤモヤ感が拭えないまま、終わってしまう本には、ストレスを感
じてしまう。
だけれども、そういう本は意外に多かったりするわけで、だから好
みの作家に出会うと読みあさる。
そこに、世間一般の流行りはない。
自分流の、マイブームだけである。
プラス、人から勧められる本を読むことも多い。
本好きな人は、決まって感動した本を薦めてくれることが多いからだ。
「本はリアルさが大事」と言い切る知人から、桜木紫乃さんの「凍
原」を借りた。
どの場面も描写が素晴らしくて、どんどん先を読みたくなる本だった。
桜木紫乃さんは、北海道の作家さんである。
まだ若くて、その才能の凄さに驚かされる。
終戦時の混乱の樺太、留萌、札幌、そして現在の釧路、小樽。
一つの殺人事件に、過去のパズルが正確な描写とともに埋まってい
くシーンは圧巻だった。
桜木さんの他の本も読んでみたくなった。
だから、本を借りたお礼に、今度は私が何か貸すことにした。
宮本輝さんの「骸骨ビルの庭」、佐々木譲さんの「廃墟に乞う」、
北の作家書き下ろしアンソロジー「宴」。
その中に、奥田英朗さんの「オリンピックの身代金」も入れて渡した。
私の周りでは、奥田さんの本を読む人は少ない。
最新刊の「無理」でも良かったけれど、奥田さんの熱烈なファンで
ある私にとっては、ここは慎重に運ぶべきなんて思ってしまったのだ。
本は出会いが大切。
初めて読む作家さんの本で、感動がなければ、次の作品はきっと読
むことはない。
そんなものだ。
それなのに、私は「重松清が好き」という友人に、「空中ブラン
コ」と「インザプール」をセットで貸したことがある。
彼女は複雑な顔で、私に読んだ本を返してよこした。
無念である。
「本はリアルさが大事」と言った知人は、「オリンピックの身代
金」が一番面白かったと言っていた。
凄くて感動したと少々興奮気味だった。
「でしょ? そうなんだよね」と、私はちゃっかり自慢顔。
この知人には、これからも奥田さんの本を貸そうと思った。
ところで、こんな知人もいます。
ロシア文学やギリシャ神話、昔はシェークスピアを好んで読んだと
いう知人です。
彼女に何か本を貸してと言われた時に、とても悩んだ。
好みは難解な厚みのある本だと言う。
でも、ホラーは苦手らしい。
悩んだ挙げ句、京極夏彦さんの「巷説百物語シリーズ」を貸すことに。
当時、私は京極さんの本にどっぷり填っていて、随分集めていた。
ホラーは苦手という知人に、どうかなぁという気持ちはあったもの
の、意外にも反応は良かった。
凄く面白かったというのです。
又市のファンになったと、もう興奮気味だった。
素直に嬉しい気持ちだった。
でも、京極さんが書く本は化け物本が主流。
そういう傾向を薄めた推理物シリーズもあるけれど、「のぞきの小
平次」なんぞはピカイチ、恐くて、眠れなくなる。
そんな私も、最近人に勧められて故・藤原伊織さんの「テロリスト
のパラソル」を読んだ。
なんという素晴らしさ、惚れ惚れします。
「テロリストのパラソル」は、今更ながら私が解説することもない
けれど、この本が乱歩賞と直木賞をW受賞したのも納得してし
まう。
登場人物はどれも魅力的で、会話も描写も見事で、次々と読み進み
たくなり、目が離せなくなる。
そんな藤原さんは、大の酒好きで、ギャンブル好きだったという。
藤原伊織さんの本は少ないけれど、全部読んでみよう、そんな気持
ちになった。
近頃、ハードボイルド物には疎遠だったけれど、大沢在昌さんの本
を思い出した。
作品としては違うけど、大沢さんの本が好きな私は、「新宿鮫シ
リーズ」を思い出してしまった。

今は、平野敬一郎さんの「どーん」を途中まで。
手強さに、少々撃沈されてます。
そして、京極さんの「数えずの井戸」。
怪談でお馴染みの皿屋敷の京極版です。
私の読書日和は続きます。


コラムニスト●プロフィール
……………………………………
赤松亜美(あかまつあみ)
北海道在住

0 件のコメント:

コメントを投稿