2010年1月1日金曜日

連載コラム253 from 北海道●ねねちゃん

新年あけましておめでとうございます。
初っぱなからではございますが、偶然見たテレビで、
干支にちなんで「牛から寅へのバトンタッチ」と
称して、本物の子牛と子供の虎が、ステージ上で
パフォーマンスじみたことをさせられていました。
子牛はマイペースだけれど、虎はと言うと、すこぶる牛にご執心。
これも猛獣の本能なのでしょう。
牛をパックリ噛んでみたい虎君に、慌てた司会者がその場で
リードをぐいぐい引いて牛から引き離す、そんな一場面も
ありました。
牛と寅のバトンタッチだなんて、その絵って必要? 
と思う私。
むりやり動物使ってやんなくてもいいのにね。
そう思いながらも、私は失笑していた。
あれで、もし牛が食われてたりしたら間違いなく会場は
混乱のるつぼと化して、ほのぼのした中継も、
ガオーの映像が繰り返しメディアで流され、叩かれていたのでしょう。

みなさーん、虎は猛獣ですよー。
くれぐれも無理はしないでね。
虎に牛を近づけるなんて、無茶はやめましょうね。

ともあれ、それはそれとして、先日我が家にねねちゃんがやってきた。
ねねちゃんとは、生後一年足らずのメスの子犬、マルチーズです。
のっぴきならぬ用事がある夫の妹に、預かってくれないかと頼まれ、
ねねちゃんは、我が家で半日過ごすことになりました。
が、家へ来るなり、カートの奥で小刻みに震えている。
知らない家にすっかり怯えきっておりました。
全く、こちらが心配してしまうほどです。
私は元来、生き物が好きで、猫でも犬でも虎でも蛇でも昆虫でも
ハ虫類でも、とにかく興味があり、とにかく好きで、
当然そうなると、ねねちゃんとも仲良くしたい虫が勝手に騒ぎ出し
ました。
でも、小型犬は飼ったことないのです。
ないけれど、猫や犬と慣れ親しんできた私には、
確たる自信がありました。
カートの扉を開けっ放しにして、ねねちゃんに背を向けて
知らん顔でその場を立ち去った。
ものの数秒も経たないうちに、ねねちゃんは猛ダッシュで家中を走
り出す。
それを後ろから追い掛けて、猫なで声で名前を呼んだ。
「ねねちゃーん」
小型犬だから、大きな声は禁物です。
小声でかわいく話し掛けないと、ねねもびっくりする。
「ねねちゃーん」
どうしようかと、まだ思案するねねちゃんは、困った顔で、
だけど、まだ一定の距離を置いて、まだ警戒モードなので、
今度はエサで釣る作戦に変更した。
動物と仲良くなれるコツ、その1。
食べ物を与えてみる。
私は、肉まんを見せびらかして、ねねちゃんをじらした。
瞳を輝かせるねねちゃんに、「待て」を繰り返し、ちょっとずつ指の先に
ちぎった肉まんの皮を乗せて、食べさせた。
ねねちゃん、パクパク食べる。
「いい子だねー。おいし?」
ご飯は、ボウルに入れられたドックフードと、三時のおやつ用にと
別ボウルに入れられたサイコロサイズのリンゴを、妹は丁寧にラップまで
掛けて置いて行った。
まだ肉まんの皮を欲しそうなねねちゃんが、私を見つめる。
お行儀よく、前足をちょこんと揃えて、潤んだような瞳で欲しいデスと
訴える。
「よしよし、また後でね」
ねねちゃんの頭を撫でて、私はソファに腰を下ろした。
この作戦が功を奏し、ねねちゃんと私はあっという間に仲良くなった。
私が与えた水を飲み、トイレで気ままに用を足し、
おやつのリンゴの他にみかんも食べて、
体や頭や首筋を撫でると、ねねはうっとりする。
ちんまりと私の腕に抱かれたまま窓の外を一緒に眺めた。
ベランダの窓ガラスを開けて、外の空気に触れさせ、表の公園や
通りの音に耳をそばだてるねねちゃんに、私は話し掛ける。
「ねねちゃん、ほらお船さんが見えるよ」
ねねちゃん鼻をひくひくさせて、無言で私を見つめ返す。
「ほら、空も夕焼けで染まってきた。きれいだねー」
またもや無言、でも見つめてくる瞳が堪らなく愛らしいぜ。
犬は基本的に目が悪い。
船だって、夕焼けだって、そんなの見えないに決まってます。
だけど、そんなことも無視して、私は子供をあやすように続けた。
ねねちゃんは、私の言葉をじっと聞き、そして見つめ返し、
私に甘えるようになった。
それからのねねちゃんは、私の後をひたすらつけ回した。
「ストカーねね」と改名したくなるほど、私の後をつけてきた。
ソファから立ち上がっただけで、キッチンに立っただけで、
私の後からついてくる。
洗濯物を畳む傍らで、じっと座り込み、移動する度に、
足に絡むようにまとわりついた。
ねねちゃんは、無邪気にかわいく足にまとわりついてくるけれど、
やせっぽちなので、こっちはうっかり踏んでしまいそうで、
とってもこわい、とっても危ない。
「危ない、危ないから、ねねちゃん」
でも、私の嘆きなんか全く聞き入れてないようすだ。
ひたすら愛情を示し、とても可愛かった。

それから間もなくして、困ったことが起きた。
私がトイレに立ち去った時、ドアを閉め切った途端、ねねは、
ギャンギャンと狂ったように鳴き出した。
ねねちゃんを預けていった妹は、「可哀想でひとりで留守番をさせ
たことがないの」と
言っていたが、なるほど、これは相当甘やかさせているらしい。
一人は絶対にイヤだと抗議で吠えまくる。
困るよう、でもなぁ、トイレのドアを開けっ放しにしてやれるほど、
私の心は広くないのだ。許せ、ねねちゃん。
半狂乱で鳴きまくるねねちゃんをドア越しになだめた私でした。

ペットはいいなぁ。
久々に動物と密に触れ合って、私は満面に笑っていた。
ねねちゃんは、私に腹を見せて、服従のポーズでご愛敬だ。
「ねぇ、あんた。そんなに、誰にでもすぐ懐いてたら、知らない人
に連れてかれるよ」
私がぼやいても、ねねちゃんは構わずに私にぴっとりと身を寄せてくる。
安心しきってる、っていうか、たぶん我が家のようにくつろい
じゃってるのかも。

そうして、ねねちゃんは私の顔をイヤというほど舐めまくり、
用意したブランケットや丸い座布団の上で、後ろ足をだらしなく伸
ばして、
穏やかに眠った。
私は環境音楽を掛けて、静かに本を読んだ。
本当は、他にしたいことも山ほどあったけれど、私が動いただけで、
ねねが突進するようにまとわりつくから、私も静かに過ごすしかな
かったのだ。

夜の8時過ぎ、夫が帰宅してから、まもなく妹もねねちゃんを迎え
にきた。
夫は、ねねが自分を無視して私の後ばかり追い掛けるので、
大人げなくねねに不満を垂れた。
妹はねねの様子が心配で、急いで迎えに来たにも関わらず、
ねねがすっかりくつろぎきっているので、ショックな顔をした。

甘え上手で小さくて、痩せていて、ねねちゃんはこんなに人を癒し
てくれるのに、
実は、ペットショップで売れ残っていた犬だったという。
売り犬にしては、育ちすぎたからと赤札を付けられ、たぶん偶然この店に
立ち寄った妹がねねを引き取らなければ、ねねは確実に処分されて
いたのだろう。
ねねを購入した経緯を聞かされ、私はねねを抱きながらねねの運命に
不思議な気持ちになった。
また、この犬を預かりたいなと思う。
「いつでも、また預かるから。ね、ねねちゃん」
妹は、「ありがとう」とにっこりしている。
でも、手からエサを与えたのは、秘密です。
ご飯もおやつもボウルからすくって、手で食べさせたのだ。
反則だなぁと思いながらも、私はそうまでしてもねねと仲良くなり
たかった。
妹が知ったら、絶対に怒るだろうなぁ。
だから、この話は秘密、内緒です。


コラムニスト●プロフィール

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赤松亜美(あかまつあみ)

北海道在住

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