2011年6月1日水曜日

連載コラム287 from北海道●情報の非公開に思うこと

先の国会で記憶に新しいのは、5月20日の参議院予算委員会で、
自民党の佐藤正久議員が福島第一原子力発電所事故後の政府対応
を、厳しく批判したことだ。
福島県出身の佐藤議員は、元陸上自衛官。
2004年からの自衛隊イラク派遣では、第一次復興業務支援隊長
を務めている。
イラク派遣時に、イスラム圏のルールに従って、口ひげをたくわえ
た風貌でもお馴染みの人だが、あの当時、サマーワの部族長や住民
らと信頼関係を築いたことでも有名である。
いつだったか、さだまさしさんがコンサートで、この佐藤さんとは
古い友人であると語っていた。
佐藤さんの純朴な人柄に触れたさださんの話が、今思い出しても懐
かしい。

3月23日になって、原子力安全技術センターが、放射性物質の広
がりを予測するシステム『SPEEDI』のデーターを公開した。
『SPEEDI』とは、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシ
ステムのことで、原子力発電所などから大量の放射性物質が放出さ
れたり、そのおそれがある場合、周辺環境における放射性物質の大
気中濃度および被ばく線量など環境への影響を、放出源情報、気象
および地形に基づき予測するシステムのことである。
驚くことに、この『SPEEDI』には、開発費も含め、これまで
に約240億円が注ぎ込まれ、昨年の予算も7億円だったという。
『SPEEDI』のデーターは、3月13日から原子力安全委員会
や経済産業省に情報が送られていたが、国民には公表されなかった。
公表されなかった理由について、政府と東電の原子力対策本部事務
局長を務める首相補佐・細野豪志議員は、「公開によって、社会全
体にパニックが起こることを懸念した」と言ったが、この発言に
は、しんそこ疑問を感じてしまう。
12日に、原発20キロ圏内に避難指示が勧告された人々は、いっ
せいに避難したのだ。
その中で、放射線量の高い地域へと避難した人々は、のべ1万人である。
ただただ山の方へと避難した浪江町、南相馬の住民たちは、原発か
ら北西へと向かった。
そして、15日の福島第一原発二号機の爆発によって、この人々は
避難先で更に高い放射線にさらされている。
後日公開されたデーターでは、原発から北西に向かって飯舘村ま
で、放射線の被害は及んでいるが、原発から33キロ余り離れた飯
舘村長泥の屋外積算放射線量は5月29日までの67日が経った今
も、危険区域だ。

『SPEEDI』の情報を知っていた内閣府の原子力安全委員会も
文部科学省も経済産業省の原子力安全・保安院も、責任の所在は自
分達にはないと、どこかひとごとだ。
ましてや総理官邸の枝野官房長官は、『SPEEDI』の存在を後
日知ったという。
これは、いったいなんなのか?
避難した住民が危険にさらされることを承知で、この機関に携わっ
ていた人々は事務的な判断しかできなかったというのか?
責任は、これらの情報に関わった人々全てにあるのでないか?
この人たちには、その認識すらない。
組織として情報が統一されていないのも、終わっている証拠である。
福島原発の海水注水中断の騒動も、これとまったく同じだった。
このことは、後になって、現場の吉田所長が、自分の判断で注水を
継続していたことがあきらかになったが、このとき、東電は吉田所
長の処分を検討していると公にした。

私たちは、この震災で、心をひとつにしてと思っているが、あまり
にも温度差を感じてしまう。
現場で奮闘する人々は誰もが必死なのに、東電の上層部からはその
誠意すら伝わってこないし、『SPEEDI』の情報が公開されな
かった事実をめぐっても、やはり同じことを感じてしまうからだ。
情報を扱い握っている人達には、国民の安全のために情報を公開す
る義務があったはずだ。
それなのに、危険地域に避難してしまった住民の痛みや不安、怒り
すら想像することは出来なかったのだろうかと思うと途方もない気
持ちになる。
もし本当にそんな感情をみじんも感じていないとすれば、それは人
としてあまりにも機械的すぎるのではないか。
そして、こんな人達ばかりが国民の安全を握る情報の源にいること
も、組織としては終わっているのだろう。

しかし、だ。
それでも、この大規模な震災、原発事故を抱えて、今まさに内閣不
信任案の提出で、国会は盛り上がろうとしている。
確かに管さんには、がっかりするし、スタンドプレイが多いのには
腹立たしい。
ここぞという時の総理としての態度にも問題が多いのも事実である。
だけれども、管さんを総理の椅子から引きずりおろしたところで、
そのかわりは見つかるのだろうか?
人材がまったくいないわけではないが、いまの国会が総理をめぐっ
て解散になったところで、選挙どころではない被災地を抱えては、
国会が空転するのは目に見える話ではないのか?
それに、管直人という人は、そんなにやすやすと総理をやめる人で
はない。
悪い言い方をしてしまえば、それだけ総理の椅子に執着しているからだ。
本人にやめる意志がない限り、総理の入れ替えなんてできないし、
日本の法律ではそれも難しい。
こういう最悪の情況下で、日本のトップに問題があるのは、腹立た
しいことだが、それならばそれで、まわりが補佐してトップのいた
らない部分を補っていくしか道はないのではなかろうか。
さっそくG8でも、管さんのスタンドプレイは目立っていたが、こ
れは民主党の性分なのかもしれない。
鳩山前総理にしろ、管さんにしろ、勝手に派手なパフォーマンスを
して国際公約を掲げてしまう癖は、まるでオオカミ少年のようで、
世界からの信用はますますなくしてしまうのだけれど、目の前の震
災の規模とこれからの長い復興を思うと、やはり取るに足らないこ
とのように思えてしまう。
なにを優先するか、そのことに尽きるのではないだろうか。
トップの入れ替えは、復興の道筋がある程度たってからでも遅くは
ないはずだ。
国難のために、難破船を修繕してでも進むべく、日本の政治家たち
は覚悟と努力をしてほしいと思います。


コラムニスト●プロフィール
……………………………………
赤松亜美(あかまつあみ)
北海道在住

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