2011年1月4日火曜日

連載コラム277 from北海道●水嶋ヒロというカテゴリー

第5回ポプラ社大賞受賞で、脚光を浴びた水嶋ヒロの受賞作
「KAGEROU」が、早々に発売され、注目を集めている。
著者名は、本名の斉藤智裕を名のり、すでに76万部を印刷したと
言われるこの本は、発売初日も、水嶋ヒロの小説を求める人達の多
さに、ある書店では通常より一時間も早く店をオープンさせた話
や、いまだにBOOKランキングでは、一位の座を獲得し、根強
い人気を保っている。
一躍、いや既に、役者としてのアイドル性や彼自身の結婚でも、常
に世間の注目度は高かったが、所属事務所を辞めたとたん、今度は
作家として華々しくデビューを飾ってしまったのだから、なんとも
非の打ち所のない、そんな印象を持ってしまうが、たぶん水嶋ヒロ
自身は、なんでもつつがなくこなせる、とても器用な人なのだろう。

小説「KAGEROU」の中身については、あえて、ここでは、解説
をはぶかせてもらうが、これだけ注目を浴びた作品なのだから、当
然この本を手に取る人は、それなりに期待したはずだ。
だが、期待した分、何か読了後にモヤモヤしたものが拭えなかった
のも事実である。
この本は、ファンタジー小説だ。
しかし、扱っている題材は、人間の体の再利用で、つまり、臓器の
有効転売と銘々づけてもおかしくない物語だ。
主人公大東泰雄ことヤスオが抱える自殺願望の境遇設定も、浅い。
単調に進んでいく物語に、まさかこのまま真っ直ぐに話が進むわけ
ではないだろうと、疑念を抱きながらも、あろうことか、そのまま
最後まで物語が突き進んでしまったことに、少々面食らう。
文中のところどころにうかがえる、水嶋ヒロ的比喩表現は、独特の
文学的なものを感じさせられるが、非情に辛口に言ってしまうと、
どうにも読み進まないのだ。
なにか、小説としての流れが非情に悪く、次々と読み進めない悪さ
がある。
後半になって、やっと文章の流れが変わってくれるが、そこまで読
み進むまで、ジタバタと悪戦苦闘してしまうのだ。
そして、作者自身が、この物語を通して、本当に伝えたかったこ
と、言いたかったことが、後半部分、最後まで読了することで、
やっと伝わってくるけれど、この本を手にした人達は、みんながみ
んな最後まで読み終わらないまま、本を閉じてしまうことだってあ
るのではないかと、漠然と想像してしまった。
小説は、エンターティナーであるから、どんな内容も作品も結構な
のだが、これを未来型小説とは、とても呼べない。
ましてや、この物語に共感することは、なかなか難しく、共感でき
ない小説に、どこまで読者がついていけるかと問われれば、そこは
やっぱり最後まで読むしかないわけで、言うなれば、根気をためさ
れているような気さえした。
この小説が、ポプラ社小説大賞を受賞した時に、確かポプラ社側
は、「作品が荒削りであることから、手を加えないと、とても本に
することはできない」と言っていたのだ。
だからこそ、水嶋ヒロの処女作の発売は、まだ先のことと高をく
くっていたが、出版側は、なんとしても旬のうちに、さっさと売っ
てしまいたい気持ちにかられたのかもしれない。
そうでなければ、12月中の発売など強行に及ばなかったように感
じるのだ。
世間の注目も、流行も、移り気の如く、あっという間に、変わって
しまう昨今だ。
そこを思うと、出版社の焦りも解らなくはないが、それでも、水嶋
ヒロという新しい作家に賞を与え、彼の作家としての将来性に出版
社側も期待をし、そこを大切に思うなら、この小説は、もう少し慎
重に校正すべきだったのではなかろうか?
この小説がダメだとは言わない。
だけれども、注目されているうちに、なにがなんでも売ってしまえ
という出版社の乱暴さが、本から手に取るように伝わってきてしまう。
もっと言ってしまえば、この本が1400円という定価でありなり
がら、本の表紙を含めた紙質の粗雑さにも驚かされるが、文中の誤
植の部分のシール貼り付けなど、素人でもあるまいし、出版社とし
て、あってはならないはずである。
ポプラ社が社員総出で右往左往しただの、取り次ぎ社に搬入の時点
で、誤植が見つかっただのは、それはあくまでも出版社側の事情に
過ぎないわけで、読者は、この新刊に、少なからず期待を寄せて金
を払うのだから、こういう雑な行為に、騙された気持ちになって当
然なのだ。
ポプラ社側は、「ポプラ社小説大賞」は、今回で打ち切りとのこと
で、今後は新人作家発掘のために力を注ぐ方向と、述べている。
小説「KAGEROU」を出版した、水嶋ヒロの印税は、1億とも囁
かれているが、作家のとしての本当の勝負は、2作目以降なのだろう。
ただ、「KAGEROU」を読んだ読者が、そのまますんなりと2作
目も購入することは、なかなか考えにくく、多少はったり的な今回
の販売方法から、水嶋ヒロの作家生命を、勝手に案じてしまったの
も事実だが、そこは心配など無用なのかもしれない。

何故なら、水嶋ヒロ自身は、あまり小説家という位置にもこだわっ
ていないのかもしれないと思ったからだ。
人生の、その時々に出会う、自分が興味を抱くもの、やりたいと感
じることに自由に手を伸ばし、小説を出したからといって、役者
だって機会があれば、また続けていくのだろうし、この先、映画
「BECK」の出演で快感を得たように、バンドだって組んでみ
たいと彼は言っている。
きっと彼は、「水嶋ヒロ」というカテゴリーで、自由に奔放に挑戦
していく、そんなジャンルの人なのかもしれない。


コラムニスト●プロフィール
……………………………………
赤松亜美(あかまつあみ)
北海道在住

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