2012年2月1日水曜日

連載コラム303 from 北海道●モナクカバキチ

NHKニュースで、54勝の地方競馬最多勝記録をもつ「モナクカバキ
チ」という馬を見た。
これは、広島県福山市営競馬の話で、「カバキチ」は、13歳のオス。
人間に例えると、50歳をこえる年齢である。
11年前のデビュー以来、200回余りのレースに出場してきた。
ファンがしきりに声援をおくる中、3歳、4歳と若い馬達にまじっ
て、「カバキチ」は、勢いのある走りを見せていた。
競馬の世界で、昔は、若い馬だけが、レースを走ることはごく当た
り前だった。
8歳ぐらいの馬だって、ほとんどいなかったように記憶する。
ゲームの「ダービースタリオン」が、世に一大ブームを巻き起こし
た頃の話である。
生産・馬主・調教も兼ねて、手塩に掛けて育てた馬を、レースで走
らせながら、タイトルの獲得を目指すこのシミュレーションゲーム
は、時には事故で馬が死んでしまうもあり、そんな時は、悲しい音
楽と共に、夕日を背に馬の顔がアップになって、画面に経歴が流れ
始めると、込み上げてくる悲しさに、泣いてしまうこともしばしば
だった。
ともあれ「ダビスタ」は、攻略本なしには、レースには勝ち進めな
い仕組みになっていて、プレイヤーは、とにもかくにも強い馬を育
てようと、馬の研究に余念がなくなる。
血統と血統の相性やインブリード、ニックスや健康面のこと。
最強馬をつくるために、G1レースを総ナメにするために、とゲー
ムにのめり込む。
実は、この「ダビスタ」、こだわりの強いゲームである。
サラブレッドの歴史から、牝馬リストに年間のレーシングスケ
ジュールや、それに騎手にいたるまで、限りなく本物に近い。
それだからか、どうしたって、「ダビスタ」から、実際の競馬に、
興味を抱かざる終えなくなってしまうのだ。
この頃の私は、「ダビスタ」の影響で、日曜日が来る度に、競馬を
よくテレビ観戦していた。
スポーツ新聞をひろげて、あーでもない、こーでもない、と仲間う
ちで言い合いながら、勝ち馬を予想した。
貧乏だから、誰も馬券なんて買えなかったけれど、それでも競馬に
夢中だった。
夢中で、楽しくて、きっと、あの頃の私は、走る馬たちに、夢を見
せられていたのだろう。

広島県福山市営競馬で、出走した「カバキチ」は、3ヶ月半ぶりの
レースだったという。
成績は、5着。
それでも、去年の8月に、体調を崩し、復帰も危ぶまれていたのだ
が、レースでは、見事に元気な姿を見せていた。
近頃では、現役競走馬の年齢も上がっている。
中央競馬では、9歳までしか競走馬として登録はできなかったが、
その規定もはずされ、今では、10歳や11歳の馬が出走している。
競走馬の平均年齢が上がった理由に、馬の質や、栄養、健康面での
管理が、良くなったこともあるのだろうが、昨今の競馬界の不況
も、多少なりとも理由のひとつに否めないと思われる。
規模の小さな馬主が、巨大な資本家や海外の投資家に、喰われてい
くような時代だから、日本の競馬界も、ずいぶんと苦労しているは
ずなのだ。
それでも、小さな地方競馬で、「カバキチ」のような年老いた馬が
頑張る姿には、勇気をもらうようだ。
胸に、何かが、すっとおりてくる。
あきらめないで。
あなたも走り続けて、と云われているような気持ちだった。
「カバキチ」のように、と思います。
もっと、心を強くして頑張りたいものです。


コラムニスト●プロフィール
……………………………………
赤松亜美(あかまつあみ)
北海道在住

0 件のコメント:

コメントを投稿