2012年1月16日月曜日

連載コラム302 from 北海道●時代劇の危機

1月11日に放送されたクローズアップ現代では、時代劇の危機を
取り上げていた。
確かに、民放テレビでは、めだって新しい時代劇を放送しなくなっ
ている。
それを時代劇の危機だなんて、私自身は考えてもみなかったのだ
が、ご長寿番組としても名高い『水戸黄門』が、最終回を迎えて
も、またそのうちに、再開されるだろうと思っていたし、新作の時
代劇も、これまでと同じように当然作られると思い込んでいたの
で、本当に驚きだった。
今年、民放で放送を決定している時代劇ドラマは、たった1本だという。
つい先日、テレビ東京で、初回の2時間版が放送されたばかりの
『逃亡者 おりん』が、それである。
それほどまでに、危機的状況ならばと、私もリアルタイムでこの時
代劇を見た。
内容はともかく、愕然としたのは、今後の放送が、深夜枠だということ。
新作の時代劇、しかも続編なのに、これは考えられないことだった。

時代劇は、現代ドラマより制作費が高くつく。
それについては、素人の私でも理解できることだが、それでも、多
少は時代劇も新作映画として、ままあるように感じてきたので、本
当にこの話には驚きだった。
ただ、時代劇の制作には、専門的なプロの知識が必要。
彼らは、まるごと生粋の職人達である。
この道うん十年というベテランの制作者、スタップから役者、エキ
ストラまで、その力なしには、時代劇は決して作れない。
京都太秦は、時代劇の聖地である。
その太秦でも、実際には、経営的な困窮に追い込まれているという
話だった。
日本では、時代劇が誕生してから、ほぼ100年が経つ。
制作現場で四苦八苦しながら、繊細な部分まで受け継がれてきたこ
の伝統は、日本文化の宝だ。
合戦ものや奉行もの、武士道や任侠ものや捕物帖、そうかと思えば
異色の悪役主人公ものだったり、全面にアクションを押し出した時代劇。
風俗描写から所作にいたるまで、時代劇は昔の夢の宝庫なのだ。
時代劇を、今でも元気に作れるのは、たぶんNHKぐらいなのだ
ろう。
8日から始まった大河ドラマ『平清盛』も、初回放送から、文句な
しに面白かったし、今後の展開も非常に楽しみだ。
どこぞのご当地知事が、このドラマに、難癖をつけたというが、そ
んなことは微塵も感じなかったし、逆に、このドラマの野性味あふ
れる荒々しさに、主演の松山ケンイチが、どのように清盛を演じて
いくのか、とてもワクワクさせられたくらいだ。
そういうことからも、NHKがつくる時代劇には、まだそれほど
金銭的な苦労は感じられないから、問題は民放と映画業界なのだと思う。
取り分け時代劇を敬遠しがちなスポンサーに、民放テレビは、すっ
かり尻込みしているというし、何よりも問題なのは、視聴率が取れ
ないこと。
だが、このテレビ視聴率とは、いったいなんなのだろうか?
スカパー!や光、はたまたBSやプレミアチャンネルがわんさ
かあるこの時代に、視聴率が果たして本当に正しい基準になるのだ
ろうか?
視聴率が取れなければ、スポンサーがつきにくいことも理解できる
が、視聴率に制作される番組が、ほんろうされ続けてしまうのは、
時代劇の危機というより、テレビ業界の危機ではないのだろうか。

時代劇チャンネルで、再放送される時代劇を見ていると、そこには
作り手の自由さがある。
時代の風俗描写や昔ながらの所作に、洒落や愛敬を織り込む娯楽時
代劇からは、作りたい物をつくってきた人達の心の豊かさまで、垣
間見られるようだ。
元来、テレビとは、そうあるべき。
縛りがありすぎる今のテレビは、何よりも視聴率が重視だ。
視聴率が稼げて、視聴者に媚を売る物にしか、手を出さない。
ともあれ、時代劇をこよなく愛するひとりとしては、これからの時
代劇が生き残る策として、ビュジュアル重視に傾いてゆくのは、寂
しく思うけれど、それも時代の流れなら致しかたないこと。
静かに受け入れたい。
ただ、どうあってもなくならないでほしいと思います。
テレビや映画は、夢を売る商売。
たとえ形が変わろうとも、日本から時代劇が失われないように、と
切に願います。


コラムニスト●プロフィール
……………………………………
赤松亜美(あかまつあみ)
北海道在住

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