2011年9月23日金曜日

連載コラム294 from北海道●野田政権のゆくえ

9月2日に野田内閣が発足してから、わずか9日目にして鉢呂吉雄
経産大臣が早くも辞任した。
みずからを「どじょう」に例え、挙党一致を掲げた野田政権は、内
閣発足後、つぎつぎと伝わる話は、大臣達の突飛な発言ばかりで、
まったく苦笑いしか出てこない。
鉢呂大臣の辞任劇も、そうした騒動の一端にすぎないようにも捉え
られるが、どうにも釈然としない感があった。
東京電力福島第一原発の視察後の会見で飛び出した「死の町」発言
も、この会見で大臣が発した言葉を一通り聞いてみると、それほど
問題があったようには思えない。
むしろ、福島の現状はそれほどまでに深刻と言いたかったのではな
かろうか。
東電の原発事故で、警戒区域や避難指定をうけた福島は、場所に
よってはゴーストタウンと言ってもいい過ぎではない。
鉢呂さんも、そのことを率直に述べただけなのだろうが、実際は
「死の町」という言葉だけが切り取られ問題視されている。
その後、夜になってから、大臣が議員宿舎へ帰宅した際に、囲み取
材の記者のひとりに近寄って、着ていた防災服をすりつける仕草を
し、「放射能をつけたぞ」という趣旨の発言をしたとのことだが、
二度の失言というレッテルを張られ、今回の辞任に繋がっている。

もともと鉢呂さんは、旧社会党グループの人。
農協職員だった1990年に無所属で衆議院選に出馬し、初当選後
に社会党入りし、その後、民主党に移っている。
政治姿勢は、左翼的な部分もあるが、人柄はマジメだ。
興味深いのは、この鉢呂さんが、震災後になんども積極的に福島を
訪れていることである。
各学校を視察し、クーラーの必要性や、学校もしくは周辺の放射線
規定量を下げるように、国会で熱心に訴えてきたのが、鉢呂さんだった。
それだけに、福島再生への思い入れは深かったはずである。
そのような人が、経産大臣に抜擢され、将来的には原発ゼロの社会
を目指すと発言し、急がれているTPPについても、元農協職員
の経験から慎重な姿勢だった。
新しい原発はつくらず、いま現在、建設を凍結している原発につい
ても、十分に検討していくと鉢呂さんは対応を示したが、たとえば
建設が着工済みの青森の大間原発では、工事の4割が進んでいる状
態で、将来稼働を前提にしたストレステストの対象にも大間原発は
含まれ、岡田前幹事長も、5月の視察の際に、すでに出来つつある
ものは、安全性を高めて、と擁護したことも、鉢呂さんは、慎重な
姿勢を崩さなかった。

3.11の震災、並びに福島の原発事故が、日本国内の原発を抱える自
治体にもそのまま影響をあたえ、踏みとどまり、考える方向に迎え
れば良いが、物事は、なかなかそうたやすくはない。
原発への依存度が高ければ高いほど、自分達の町は大丈夫と勝手な
思考停止におちいってしまう。
それだけ、国は原発を抱える自治体に金をばらまいてきた。
麻薬のように、次々と原発をつくらせ、原発で働かせ、離れられな
い仕組みをつくってきたのだ。
福島原発の被害の大きさが、復興の足かせになっていることは明確
なのに、原発を抱える自治体では、自分達の生活不安がまず先にくる。
原発で食べているということは、そういうことだ。

北海道も泊原発の再稼働を知事が容認したことや、北電のやらせ問
題が浮上している。
2008年の泊原発3号機のプルサーマル計画を巡る公開シンポジ
ウムで、北電が社員に計画推進の意見を出すようにメールを送って
いたが、このやらせ問題、すでに2000年の集会でも行われていた。
北電は、組合そのものが民主党である。
世論が脱原発に傾いても、北電の組合支持を票に取り込んできた民
主党には、頭の痛い問題である。
それほどまでに、日本の電力会社の力は大きい。
経産省との癒着もある。
国は、福島原発を抱える東電をはじめ、地域独占企業の電力会社と
手を握り合ってこれまでを歩んできたのだ。

私が解らないのは、なぜ野田さんが鉢呂さんを経産大臣に抜擢した
のかということだ。
挙党一致を掲げたのだがら、この選択も当然と言えばそれまでだ
が、どうにも腑に落ちない。
極めつきに、鉢呂さんの後任には枝野さんを任命している。
枝野さんについては、やはり即戦力と判断したからとのことだが、
鉢呂さんと枝野さんでは、あまりにも方向性に違いがありすぎて、
本命は枝野さんだったのかと疑いたくなった。
原発の早期稼働やTPPの推進、そして復興を理由にした増税路
線を掲げる野田さんと枝野さんに大きな違いはない。
やはり、こうした一連の動きをつなぎ合わせてみると、鉢呂さんに
は、適当なところでポストを降りてもらうことも考慮していた、な
んて怖い想像に行きついてしまうのだが・・。

鉢呂さんの「死の町」発言はともかく、囲み取材での言動につい
て、本人はその後の辞任会見で言葉をにごしている。
そもそも、帰宅する議員を待ち受けて、番記者たちが囲んであれこ
れオフレコで話しを聞くなど必要だろうか?
この取材には、写真を撮らない、メモをとらない、名前を出さない
という決まりがあるらしいが、この決まりをやぶってまでも、記者
達が公表する必要性があると感じた今回の騒動も、オフの場での言
動なら、鉢呂さんがどういう状況で帰宅したのかもどこかすっきり
としない。
とつぜん、集まっていた記者達に自分から近づき、着ていた防災服
をなすりつけたというが、普通に考えても不自然である。
思うに、きっとその前になにかしらあったのだろう。
もしかすると、鉢呂さんはお酒を飲んで帰宅したのかもしれない
し、その鉢呂さんに、待ち受けていた記者達が何かを言い、やりと
りした末の行動だったとしたら、納得がいくからだ。
福島の除染をしっかりとやっていくと打ち出していた鉢呂さんなだ
けに、残念な気持ちである。
本人は、もっと傷心し、悔やんでいることだろう。
私は、鉢呂さんに大臣の資質がなかったとは思わない。
きっと、鉢呂さんなりに、心を尽くして頑張っただろうと思うからだ。
だが、脇が甘かった。
マジメで一本気な性格が仇になってしまったのかもしれない。

囲み取材をするなら、記者達は決まり守るべきだ。
これからという大臣を辞任に追いやり、陰でほくそ笑んでいる記者
がいるとしたら、そのことに私はゾッとする。

そして、こんな時期に、東電が被災者に記入を義務づけた保証金請
求書類の内容が公になったが、これが60ページもある書類だ。
テレビを通じて見た限りでも、非情に記載事項が細かく、こんなも
のを被災者一人ひとりに書かせる東電に腹立たしくなった。
しかも、この請求書類、3ヶ月ごとに記載が必要というから、まっ
たくもって話にならない。
政府は、税金を注ぎ込んでも東電を救済するつもりだろうが、膨大
な賠償金を払えない東電の資産は、すぐさま凍結すべきである。
凍結した資産を売却し、社員のリストラや解体をし、発送電の分離
や電力の自由化をさせて、これまでの地域独占体質にメスを入れれ
ば、もっと価格は下がるし、電力料金の引き上げも簡単には持ち上
がらない。
一社独占を野放しにしているから、原発事故のしわ寄せも電気料金
の値上げで国民がしいられる。
どの道、賠償金は国が肩代わりして払うのだ。
なのに、東電の資産凍結も、売却の話もまるで出てこない。
経産省のお役人も、自分達の身を切ってまで、何かをするつもりは
ないだろう。
財務省は、どうあっても、復興を盾に増税しか頭にない。
野田政権に、いったい何を期待しろというのか。
それでも、被災地では、もう待ったナシなのだ。
震災から、もう半年も経ってしまったのだから。
せめて、被災した人々にはなんらかの希望をあたえてほしい。
ささやかな願いである。


コラムニスト●プロフィール
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赤松亜美(あかまつあみ)
北海道在住

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