2011年5月15日日曜日

連載コラム286 from北海道●ビンラディン殺害に思うこと

オバマ米大統領が、国民向けの緊急テレビ演説を行い、ウサマ・ビ
ンラディン容疑者をパキスタンで殺害したと発表した。
このニュースは、世界を駆けめぐり、日本でも報道の扱いは大きかった。
ビンラディンが潜伏していたといわれる地区は、パキスタンの首都
イスラマバードから北へ60キロのアボッダバード、いわゆる富裕
層が集まる地区だという。
ビンラディンは、この地区にある建物に潜伏していたという話である。
2001年9月の米同時多発テロの首謀者として指名手配されてい
た国際テロ組織アルカイダの最高指導者であるビンラディンを殺害
したことに、歓喜わくアメリカ国民の姿に、私個人としては、なに
か複雑な感情をいだいてしまったのも事実である。

米特殊部隊が殺害した国際テロ組織アルカイダの最高指導者ビンラ
ディン容疑者は、射殺された時、武装していなかった。
つまり丸腰だったのだ。
その丸腰の相手を捕らえることをせずに、射殺したのは、計画の段
階で、最初から殺すことを目的としていたからである。
では、なぜ殺す必要があったのだろうか?
遺体を海に流したと発表された今では、これが本当にウサマ・ビン
ラディンだったかどうかも確認することはできない。
だいいち彼は射殺された時に、頭を打ち抜かれている。
遺体を晒したとしても、私たちには顔の判別などできない。
イラクで、身柄を捕獲されたサダム・フセインの時とは、まるで違う。
殺したという出来事だけ公表されたことに、どうしても違和感を感
じてしまうのは、真実は別なところにあるのではないかという気持
ちになるからだ。

9・11の被害者の遺族の中には、「容疑者が死んだからといっ
て、息子が帰ってくるわけではない。特別な感情はわかない」とい
う意見もあるし、「殺すよりも、逮捕して、なぜ事件を起こしたの
か、明らかにしてほしかった」という意見もあるが、「ほっとし
た」という遺族の意見もある。

これまでも、ビンラディンはすでに死亡したという話も何度も浮上
しているが、彼は、重い腎臓病をわずらっていて、透析治療を受け
ていたことについても、その真実については、判然としない。
そもそも、本当に米同時多発テロの首謀者は、ビンラディンだった
のだろうか?
10年前の9・11テロ実行犯を、アルカイダの最高主導者である
ビンラディンと名指ししたのは、ブッシュ前米大統領だったが、ビ
ンラディンは、当時この事件への関与は否定している。
その後、3年後の2004年になってから、ビンラディン本人によ
るビデオテープにより、アルカイダによる犯行声明がおおやけに
なったが、彼の犯行声明といわれるテープには、それまでも、偽物
だったという話もあり、CIAが、本物だと断定しただけで、替
え玉による録音だったともいわれているのだ。
それに、国際テロ組織アルカイダについても、未だ不透明だ。
アルカイダという組織が実際に存在するのかどうかも、議論はわか
れるところだが、ある説によると、アルカイダは、上下階層関係に
整序されたピラミッド型の秩序や、指揮命令系統をもたない組織
で、反米過激思想を持つ者が勝手にグループをつくり、それぞれが
アルカイダを名乗り、自発的にテロ行為を行っているにすぎないという。
そう考えると、国際テロ組織アルカイダの最高指導者とされるビン
ラディンは、組織的な象徴にすぎないわけで、アルカイダには、も
とから中心となる総本部も最高指導者も存在しないということになる。

9・11のテロ実行犯である首謀者のビンラディンを殺したこと
は、オバマ米大統領にとって大きな功績となる。
つまり、オバマ大統領にとっては、このことがきっかけで、国民の
支持率を取り返し、国の指導者としてもやりやすくなるのだろう。
だが、すでにこのことへの報復は始まっている。
パキスタンでは、2件の爆破テロが、発生しているからだ。
イスラム社会で巻き起こった国民による自発的な民主化で、イスラ
ム社会は変わろうしているさなかに、どうしてアメリカは、世界に
自分らの権力を振りかざそうとするのか。
彼らの社会は、彼らの手によって変わらなければ、何も生まれない
し、何も育たない。
ビンラディンを殺害したとされる不透明な出来事は、テロと名乗る
過激派を怒らせ、彼らの自爆テロを引き起こすだけではないのか。

私たち人類は、いつも一筋縄ではいかない。
長い歴史を振り返ると、世の中は確実に良い方向に向かっているの
だと思いたいが、どうしても苦難にぶつかってしまう。

『世界は、不思議な形で動く。
変わらぬものはないが、その変わり方は誰にも読めない。
誰がいつこの流れに巻き込まれるかもわからない。
心して日々を生きよ、ということだろうか。』
これは、曽野綾子さんがレポートエッセイ集でつづった言葉だ。

それでも、この世界に、光を見つけたいものだ。
先にある未来に、きっと光はあると、私は信じたい。


コラムニスト●プロフィール
……………………………………
赤松亜美(あかまつあみ)
北海道在住

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