2011年3月1日火曜日

連載コラム281 from北海道●毎日かあさん

すでにテレビアニメ化し、実写版の映画も封切りになった人気マン
ガ『毎日かあさん』は、この映画の宣伝のために、主演の小泉今日
子さんが、バラエティなどにも出ずっぱりだった。
マンガ『毎日かあさん』は、マンガ家・西原理恵子さんの家族物語
であるが、ストーリーとしては、一話完結で構成されながら、戦場
カメラマンでアルコール依存症だった夫・鴨志田穣さんのことや、
子ども達との親子物語がほとんどだ。
息子ブンジの予測不可能な言動や、おませな娘フミに、かあさん西
原は、驚いたり、腹の中で舌打ちしたり、それでものびのびとスク
スク成長していく子供達が、とても愉快で、なにより素敵で、この
マンガを読んでいても、子供達の存在が、西原さんにとって何より
の幸福なのだろうとしっかりと伝わってくる。
良い母でいることも、世間様のうっとうしい評価もすべて放棄し
て、逆に読者が作者に問われている気さえする。
あなたにとって、本当に大切なものってなに?
あなたにとって、家族の幸福ってなんなの?
マンガ『毎日かあさん』に出会った時に、心にお日さまがはえたよ
うに、ポカポカとあったかい気持ちになった。
「まだ日本にも、こんなにたくましいお母さんがいるんだ。捨てた
もんじゃないぜ、この国も!」と、嬉しくなった。
そんな読者やファンは、私に限らず多いのだろうと思う。

映画『毎日かあさん』は、アルコール依存症の夫・鴨志田さんが生
前していた頃の家族物語で、西原家の毎日に、笑ったり楽しくなっ
たりする反面、切なさが見え隠れする。
そして、話が進むにつれ、微笑ましさより、切なさがあふれて、心
がどうしょうもなく揺さぶられてしまうのだ。
アルコール依存症から抜け出せない夫カモシダを、サイバラは冷や
やかに見つめるいっぽうで、許してしまう。
離婚してからも、なお彼を家族の一員と迎え入れ、やっと精神病院
に入院して酒を断つことが出来たカモシダは、すでに癌におかさ
れ、余命半年と宣告される。
それだから、映画版の『毎日かあさん』は、主人公西原さんの話で
ありながら、夫・鴨志田さんの話でもあるし、子ども達を含めて鴨
志田さんが癌で他界するまでの家族の記録でもあった。
西原さんが、強くて素敵なのは、こんなに波瀾万丈に生きてきたから。
毒舌で、チマチマしたところがなくて、海のように心が広く愛情が
いっぱいのお母さん。
でも、あったかくて笑いでいっぱいの家族物語をマンガに描きなが
らも、ものごとをいつも冷静に見ている、そんな目線感じてしまう。
西原流の母さんは、マニュアルもないし、普通でないけど、わが家
はこれでいいのだとハッキリと宣言しているようだ。
そんなに、立派なお母さんになろうとしなくてもいいんだよ。
死にさえしなけりゃ、大丈夫と、家族が笑って生きる大切さを教え
てくれるのだ。

さて、主演のキョンキョンこと小泉今日子さんは、西原さんそのもの。
どう逆立ちして見たって、キョンキョンが西原さんに思えてしまう
ぐらいのはまり役でした。
それだけで、凄いなぁとしみじみ感動です。
キョンキョンも、過去にあれだけの人気アイドルの座を獲得してお
きながら、常に等身大の自分を大切にする女性である。
西原さんと同じく、彼女に憧れる女性ファンは多い。
それだから不安定なところがひとつもなくて、とても心が健康だ。
そういうイメージ。
自分の人生をわかっていて、自分が楽しいと思えることを知ってい
て、この年でも鼻歌まじりにスキップしながら、はやく大人になり
たいなぁっなんて人生を謳歌している。
最近の映画作品では、『風花』『グーグーだって猫である』『トウ
キョウソナタ』『マザーウォーター』に出演、主演している。
どの作品でも、独特の存在感で、小泉今日子という色を見事に消し
去り、豹変してくれるのだ。
同じマンガ家の役でも『グーグーだって猫である』と『毎日かあさ
ん』は全く違うし、同じお母さん役でも『トウキョウソナタ』と
『毎日かあさん』は、まるで別ものだ。
小泉今日子という人は、いい年の重ねかたをしている見本のような人。
それだからか、彼女に憧れ、共感する人も多い。

ところで、夫・鴨志田さん役の永瀬正敏さんは、キョンキョンの元
夫としても知られているが、こちらも永瀬さん以外の適役はいない
と思えるほど、役にぴったりだった。
というより、前編のアルコール依存症ぶりも、ダメダメ夫ぶりも、
癌におかされ激痩せしていく姿にも、スクリーンに永瀬さんが登場
しただけで、その時々の鴨志田さんの雰囲気を纏っているのだ。
背中から、表情から、全てから、永瀬さんは鴨志田さんそのものだった。

二人の息子ブンジと娘フミの存在が、作品を温めている。
笑いと楽しさに満ちているが、ここにも子供の切ない感情が見え隠
れする。

平日の上映にも関わらず、映画館は女性の観客でいっぱいだった。
年齢層はさまざまだったけれど、圧倒的に多いのは、30代から上
の世代。
愉快なシーンに声を出して笑っている人も多かったのに、最後はこ
らえきれずにすすり泣いている人達が多かった。
映画『毎日かあさん』は、実話からうまれたつくりものの世界。
でも、とってもリアルに思えるのは、西原家を演じた皆さんが役を
越えて本物だったから。
私には、そんなふうに思えてなりません。



コラムニスト●プロフィール
……………………………………
赤松亜美(あかまつあみ)
北海道在住

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