2010年12月15日水曜日

連載コラム276 from北海道●伝説のアクションスター

先日、千葉ちゃんが運転中にタクシーと衝突事故を起こしたニュー
スが舞い込んできたが、けが人はいないとの情報に、まずは胸をな
で下ろしています。
本当に無事で何よりでした。
この千葉ちゃんとは、JJサニー千葉氏のことで、旧芸名・千葉真
一さんのこと。
事故のニュースが飛び込んできた時、『つぶやき』では、「だれ
だ?」とか「いつ改名したの?」なんて書き込みばかりだったの
で、意外と千葉ちゃんの新しい芸名は浸透していないらしい。
どうも、千葉真一の名まえのほうが、ピンとくるのでしょう。
それは、私も同感。
ご本人の思いはともかく、ファンにとっても、いまだにJJは、な
かなか受け入れがたい名前なのだ。
千葉ちゃんが、JJに改名したのは、2007年のこと。
当時、大河ドラマ『風林火山』に出演していた千葉ちゃんは、記者
会見で「肉体の限界を感じた。今年いっぱいで、『千葉真一』を葬
りたい」と宣言し、その宣言通りに、11月には、さっさと『JJ
サニー千葉』に改名してしまった。
千葉ちゃんにとって、千葉真一という芸名は、肉体の役者そのもの。
千葉真一という役者が持つ肉体のイメージを保てなくなったら、こ
の名前は限界と感じたのだろう。
惨めな姿をさらすことになるだけと思ったらしい。
まさに、体育会系の千葉ちゃんらしい、すっぱりとしたご決断である。
しかし、だからといって、ファンは私だけに限らず、この新しい芸
名に、少なからず動揺したのではないでしょうか。

私の千葉ちゃんファン歴は長い。
長いけれど、かの有名な『キイハンター』がブレイクした頃は、ま
だ自分が小さかったから、個人的には、この後からになる。
ヤクザ映画を経て、娯楽時代劇へ転換をはかったことで、伝説の人
気アクション時代劇『影の軍団』も誕生したのだが、この頃の千葉
ちゃんは、実に役者としても、アクションスターとしても、まだま
だ脂がのりきっている時期でもあった。
『影の軍団シリーズ』は、三作までつくられ、アクション時代劇と
しては、大いに人気があった作品だ。
千葉ちゃんの役どころは、もちろん主役。
伊賀の松末で頭領の役どころ。
そして、千葉ちゃん率いるジャパンアクションクラブの面々も、こ
の時代劇には当然登場するのだが、シリーズ1作目では、初回から
最終回まで火野正平などの固定ファンの多い役者で脇を固めている
ことからも、この作品に、制作側も十分力を注いでいたのがうかが
い知れます。
実はこの『影の軍団』は、シリーズ1作目こそストーリーとしては
まともだけれど、視聴率を稼ぎ、続編になったとたん、なんでもあ
りのやりたい放題の娯楽作となってしまった。
この手の手法は、人気シリーズ『必殺』でも同じようなことが言え
てしまうのだが、まぁファンというものは、多少の疑問や不満を抱
えたとしても、切れのいいアクションが見られれば、その辺は、広
い心で受け止められるものだから、あまり問題がないわけです。
ですが、長いことファンでいると、つい懐かしさにかまけて、ウキ
ウキした気持ちで昔のDVDなんかも購入したりして、高まる気
持ちのまんま見てみれば、唖然呆然としてしまうことも多く、見つ
けたくもないのに、ドラマのアラを見つけてしまった時なんぞ、
「え~?」とか「うそ~」とか、奇抜な展開に頭を抱えてしまう始
末でありまして、まぁ、それでも興ざめはしないんだけど、きっと
自分が大人になった分、純粋な清い目だけで見れなくなってしまっ
ているのですな、悲しいけれど、それが真実かもしれんなどと、独
り言をぼやき、懐かしのDVDに期待しすぎていた自分に、感慨
にふけったりしてしまうわけで、それでも、映像はしっかり私に語
りかけてくるから、若かりし頃のかっこいいギラギラとした千葉
ちゃんをそのまんまに閉じこめた映像は、すこぶる惜しみなく、こ
れでもかと、どうだ、参ったかと、私にシャワーのように浴びせか
けるので、だからなのですが、多少の、いや決して多少ではないけ
れど、やりたい放題に苦笑いしてしまっても、じゅうぶんに許せて
しまう。
千葉ちゃんのかっこよさに、まぁいいじゃないのと、頬を赤らめ
て、海より広い心で受け止められるわけです。
そして、二度三度とまんべんなく繰り返し見ては、少女のような心
持ちになっていく。
どこまでも浸って、キャーキャーはにかんで、バカ丸出しだけど、
このすこぶる幸福感は、ジャニーズやK'POPや、韓流のなんた
ら様とか、龍馬を演じた福山くんとかにはまって、おっかけをす
る、またはしたくなるファンの方たちと、そんなに変わらなくはな
いのではないかと自分でも感じました。
そう、ちょっと好みが渋チンなだけ。
それだけのことなのだ。

ヤクザ映画はともかく、私はそうした娯楽時代劇を子供の頃からこ
よなく愛してきました。
夫などに言わせると、「なんだ? またおっぱい出してる。エッチ
なシーンばっかりじゃん」というけれど、これは、あの当時につく
られた娯楽時代劇ならではの宿命みたいなもので、裸を出して、視
聴率を稼ぐお約束みたいなもの、別に私のせいではない。
そういった意味では、時代劇に興味なくても、女の裸見たさに、つ
いに見てしまう男性陣も多かったのではないでしょうか。
なんて、私なんかは、断固として目的が違うのだが、どうもこの手
の作品のかっこよさが理解できない人には、いまだに誤解のタネで
もあり、どんなに切れのいいアクションがあっても、なんでもあり
の娯楽時代劇となると、特撮の連打だったりするし、忍者服が自衛
隊のようなありえん迷彩色だったり、悪役が子供向けの戦隊もの番
組に登場するどぎつさだったり、熊と格闘するシーンでは、どっか
の遊園地から借りてきたような等身大の熊の着ぐるみなんかを堂々
と使っちゃうわけだけど、しかし、とらえようによっては、これも
ご愛敬、作品の味なのだと受け止めれば、制作者の誰かさんが思い
ついた片っ端から、千葉ちゃんが、「よーし、それやってみよ
う!」なんて、軽いノリでどんどん撮っちゃってるのが目に浮か
び、勝手に微笑ましくなるわけです。

それでも、この頃のジャパンアクションクラブは、ままいい時代でした。
千葉ちゃんに、真田広之、志保美悦子や黒崎輝がそろいもそろって
出演するアクション時代劇こそ、まさにジャパンアクションクラブ
の花形看板役者のオンパレード作品。
真田広之などは、素晴らしく切れの良いアクションで、千葉ちゃん
に負けず劣らずのかっこよさでありますから、これにはイチコロ
で、真田広之主演の映画となれば、なんでも観に行きましたが、当
時はまだ映画も常にお得な二本立てで、『伊賀忍法帖』や『里見八
犬伝』などの名作はともかく、ヘンなタイトルの作品なんかもあっ
て、例えば、『燃えろ勇者』とか『百地三太夫』や『冒険者カミカ
ゼ』なんぞは、あまりにへたくそな筋書きに、ファンとしても点数
をつけかねるありさま。
それでもアクションの素晴らしさだけは大いに評価でき、そこはさ
すがであって、真田さんの若さと肉体の素晴らしさと切れのあるア
クションを武器に、タイトルが許せなくても、ストーリーがヘンで
も、帳消しに出来る。
まったくファンとは、愛情深い生き物ですなぁ。

ところが、ファンであるが故に、どうしても受け入れがたいことも
あり、ごく最近では、千葉ちゃんが今の奥さまと結婚披露宴をした
時の映像に、もうがっくり、目を覆いたくなりました。
奥さまと年の差があるせいか、どう見ても、あれでは花嫁と花嫁の
パパにしか見えない。
しかも、奥さまに花嫁衣装を着せたかったと言ったあたりが、あ
あ、千葉ちゃんも年を取ったのだとしみじみ感じてしまい、そこに
披露宴に招かれた招待客たちの顔ぶれにも、いささか困惑。
まったくダブルパンチです。
参列していた皆さまがたは、昔、縁のある方々などまるでいらっ
しゃらないのか、とにかく芸能人の寄せ集めらしい雰囲気がプンプ
ン漂い、歌手やタレント、もちろん俳優人もいらっしゃったのです
が、きっとさまざまな人とのご縁を切り捨ててきたのでしょう。
いや、そうせざるおえなかったんだよね、解るわかる。
好き勝手に生きてきたんだ、千葉ちゃんらしいと思わなくちゃ。
ファンは、それでも、あなたを理解してるよ、なんて、無理に自分
に言い聞かせてみるが、それでも、やっぱりモヤモヤ感はぬぐえない。
なんで、こんなにしてまで、披露宴やるのよーって、テレビに向
かって叫んでいた。
きっと、昔の千葉ちゃんならしないはず。
そう思うと、千葉ちゃんが身も心も、すっかり年を取ってしまった
ように感じてしまいました。
このぬぐいきれない葛藤に、結婚披露宴の映像なんて見るんじゃな
かったとうなだれ、いま見たことも思いっきり消去したい気分だっ
たのです。
身勝手な言い分なのは、重々解っているつもりです。
しかし、ファンとはしょせんそんなもの。
勝手に夢想して、自分だけのイメージが崩れていくことが、どうに
も受け入れられない。
そんなに冷静でも寛大にもなれないから、困ったもんです。

この時の衝撃を、私は馴染みの女子会で愚痴ったのですが、友人に
はすかさず笑い飛ばされ、「だって、すっかりおじいちゃんなんだ
よ、絶対にありえないって」と私が情けない顔で涙目になったとた
ん、友人二人は、「ダメダメ。現実をちゃんと受け入れなさいっ
て」と爆笑していた。
ファンであるが故に、役者も人間なのに、老いをなかなか認められ
ないのは、悲しいことです。
勝手に憧れて、勝手に思い描いて、どこまでも保守的なのだから。
永遠に、スターに年を取らせたくない自分の身勝手さに、ほとほと
嫌になってしまうものの、やっぱり心のうちは、どうにも複雑であ
り、ああ、ファンは辛いなぁと自分に同情する始末。
まったくもって、スターさまからみれば、迷惑千万な話なのだと思
います。


コラムニスト●プロフィール
……………………………………
赤松亜美(あかまつあみ)
北海道在住

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