2010年11月1日月曜日

連載コラム273 from北海道●癒し系たっぷりの映画

映画『めがね』も『プール』も、とても不思議な映画だ。
凝ったストーリーがあるわけでもなく、実にそぎ落とされた内容
で、ただ、ゆったりと過ぎていくだけの映画である。
どちらの作品も、主人公が旅に出たところから話は始まるのだが、
主人公のかたくなな心が、出会う人々のさりげない温かさによっ
て、ほぐれてゆくストーリーだ。
しかし、主人公が抱える複雑な心の葛藤については、なにも掘り下
げない。
映画『めがね』では、特にそうである。
あまり観たことのない、その不思議な世界観は、観る人を優しい気
持ちにさせる。
景色の美しさに魅了される。
砂浜から見渡す海がとても美しかったり、どこまでも晴れわたる空
がきれいだったり、緑が生い茂って、風がさわさわと鳴くさまは、
素朴な自然の美しさが、映像からよく伝わってくる。
映画『めがね』の舞台は、与論島。
日本にも、こんな場所があるんだと思ったのが、正直な感想である。
しかし、これだけのゆったりとした映画なのに、まるで飽きさせな
いのは、凄いことだ。
映画『めがね』では、「たそがれる」というセリフが、たびたび聞
かれる。
「たそがれる」を漢字で書くと、「黄昏れる」になり、その意味
は、黄昏を動詞化したもので、夕方になることを示すが、一般的
に、「たそがれる」は、そうそう使われないのではなかろうか。
とすると、このセリフひとつを取っても、これは制作者の世界観な
のだろう。
『めがね』も『プール』も、食べるシーンが多い。
テーブルをみんなで囲み、ただもくもくと食べるだけなのに、なん
だか面白い。
面白くて、実においしそう。
茹でた大きな伊勢エビを、みんなでもくもくと食べている。
彩り美しく重箱に詰められたご馳走。
バーベキューもおいしそうだし、もたいさんが作るかき氷なんぞ
は、実に食べたくなった。
かき氷用の小豆を煮る場面では、小豆の音にそっと耳をそばだて、
真剣勝負である。
その丁寧さに、おかしさが込み上げる。
実は、この丁寧さ、映画の随所でうかがえるので、それも楽しい限り。
鍋も出てくる。
映画『プール』の話である。
この映画は、タイの古都チェンマイが舞台なので、鍋もタイ風だ。
主人公・さよの母役の小林聡美のギターでの弾き語りの場面が、す
ごくいい。
透き通るような美しい歌声に、ただ驚き、この映画では、実にいい
エッセンスとなっていた。
それにしても、これだけのゆるい映画なのに、ラストは少し謎である。
謎というより、動揺したのだ。
菊子さん役のもたいまさこを意外なところで、さよが見掛けるシー
ンのこと。
これだけのゆるい映画だから、ありえない発想だけど、私は菊子さ
ん役のもたいさんが死んだと思ったけれど、たぶんこの解釈は、間
違いだろう。
「菊子さんは、ときどき、心だけで移動するから」
さよに、母の小林聡美が言うセリフである。
そして、車で空港へ向かう道の両側には、僧侶たちが列をなして歩
いているのだ。
托鉢の僧侶たちである。
風景に同化する僧侶たちを、映画のセリフぬきに、美しいと感じら
れるだろうか?
私は、原作の漫画を読んでいないけれど、自分の中にはないセリフ
や会話が、とても新鮮で、のびやかで、ひょうひょうとしていて、
いいなという気持ちだった。
映画の舞台になった与論島も、チェンマイも、天国に近い島に思え
た映画だった。

映画『マザーウォーター』は、10月30日から全国公開である。
小林聡美や、もたいまさこ、市川実日子、加瀬亮、光石研など、お
馴染みの俳優に、小泉今日子や永山絢斗がくわわった味のあるメン
バーである。
監督は、『めがね』や『プール』で制作に関わった松本佳奈さん。
これが、監督デビュー作であるとのこと。
実に、興味深い限り。
癒しをもとめて、映画館に出掛けようと思う。


コラムニスト●プロフィール
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赤松亜美(あかまつあみ)
北海道在住

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