2010年10月1日金曜日

連載コラム271 from北海道●尖閣諸島沖の衝突事件に思うこと

尖閣諸島沖で、衝突した中国漁船と日本の海上保安庁巡視船の
ニュースが連日続いている。
衆院予算委員会が開かれ、臨時国会はいよいよ10月1日からだ。
すでに、予算委員会でも、尖閣諸島沖での衝突事件について、答弁
がされた。
中国人船長を逮捕したことで、今回の中国の報復は素早かった。
レアアースの輸出禁止から、「フジタ」の社員の取り調べと拘束
に、日本政府はきっと頭を抱えたことだろう。
9月30日現在、監禁されていた「フジタ」の社員は、4人のうち
3人が釈放されたと伝わる。
逮捕した船長を、釈放したことや、中国からの賠償の要求に、日本
側が耳を塞いだ姿勢が不幸中の幸いだったのか、真実は解らない
が、中国は、それまでの威圧的な態度をゆるめ出した。
しかし、この度の騒動の行方は、たまたまである。
これで、一件落着というわけではない。
日本が、心から中国という国を理解して行動をおこしたのかという
と、おおいに疑問が残るし、これでこの騒動は、ひとまず沈静した
としても、実際は、まだ「フジタ」の社員一名は、拘束され続けて
いるわけだし、レアアースの輸出に関しても、100%解決したわ
けではない。
むしろ、中国との経済的な交友関係には、このような事態がおこり
うるということを、日本は肝に銘じなければならない。

中国は、なかなか難しい国だ。
しかし、彼らは、そのしたたかさを武器に、国をここまで大きく発
展させ、成長させてきた。
それは、日本人が持つ気質とは、まったく違うが、だが、外の国と
の駆け引きは、日本の流儀が必ずしも通用しないことを、日本人は
そろそろ気づくべきだ。
日本の忠誠や流儀に、好感を抱いてくれる国もあるだろうが、外交
の場では、たいがいそんなものは通用しないと、むしろ、日本人は
腹をくくったほうがいい。

この衝突事件後、ある時期からいっせいに、日本のメディアが流し
た情報は、中国国内で、反日感情を剥き出しにした民衆の姿だった
が、この繰り返される映像に、非常に違和感を覚えたのも事実だ。
この映像は、どのように入手したのだろうと、まずそのことを思った。
尖閣諸島沖での衝突事件は、策略だったとも、突発事故だったと
も、言い難い。
漁船がスパイも兼ねていたという話もあるが、それも証拠がない限
り、想像のはんちゅうにすぎない。
しかし、その真実がなんであったにしろ、日本側は、感情的に逮捕
し、その場しのぎで対処したに過ぎない。
管総理は、予算委員会の答弁で、この件に関して、「政治介入な
し」と言ったが、誰の目から見ても、あの船長の釈放は、政治的な
判断だ。
しかし、そうであっても、那覇地検の判断という押し付け姿勢を、
政府はつらぬくだろう。

沖縄の人々には、普天間の問題に続き、今回に限らず、あの領海で
漁業をされている皆さんには、心苦しくなった。
どうして、沖縄ばかりが、このような思いをさせられるのだろうか。
私が心配するのは、今回の衝突事件は、まだ序の口だということ。
東シナ海の大陸棚には、大量の海底油田が眠っている。
そのことが、おおやけになってから、この海域は、自分達のもので
あると主張する国たちが出てきた。
それまで、ちっぽけな諸島を取り囲むこの海域に、なんの感心も示
さなかった国たちが、公然とてのひらをかえしてきたことにも、日
本は、事を荒立てずに、穏やかに対処し、東シナ海の油田は、日中
の共同開発という、極めて平和で友好的な合意のもとに、取り組む
ことにしたのだ。
だが、中国は、今や世界でも有数の経済大国である。
まだまだ成長過程にある中国にとって、資源の確保はとうぜんの必
要枠で、共同開発に乗り出した時点から、日本が当たり前に主張す
る領土、領海線など、ないに等しい。
日本側が考える配慮が、必ずしも他国の理解が得られ、暗黙の了解
などないことを、日本政府は自覚するべきである。

日本人は、世界でもまれにみる特殊な民族だ。
しかし、外交という駆け引きでは、日本人としての気質があだにな
ることもある。
穏やかで、一歩引く姿勢は、謙虚で好ましいが、優柔不断な国だと
見られるのも事実だ。
外交は、友好的な関係を結ぶことが全てではない。
世界は、さまざまな国であふれている。
それらの国々と、腹の探りあいをしながら、したたかに、渡り合う
ことこそ、外交と呼ぶのだ。

総理の座におさまって、嬉しさが隠しきれない管総理の姿をテレビ
で目にするたびに、私は憂鬱になる。
この国の将来に、漠然とした危機感を覚えてしまうからだ。
それは、民主党政権に対する私の不安でもある。
これは、長きに渡った自民党政権のひずみでもあるが、民主党は、
政治に対する姿勢も、ビジョンも、戦略も、まるで素人だ。
そして、極めつけに、「与党になって、まだ一年たらず。我々の精
一杯の努力を、温かい目で見守ってほしい」と与党の方々は、未だ
に口にするけれど、誤解してもらっては困るのだ。
政治に、失敗などあってはならないということを。
政治に携わることも、総理大臣におさまることも、本当は栄光でも
なんでもない。
あるのは、この国を守る苦悩だけである。
そういう命がけの政治をする覚悟が、今の政府に、与党の皆さんに
はあるのかと、私はお聞きしたい。
それは、クリーンであることより、よっぽど重要である。

中国という国は、日本より、ずっとしたたかで、国力を更に広げ、
推し進めようと、そのためにはあらゆる手段もいとわない。
地方都市の再開発で、家や農地を強制徴用され、取り壊された人々
が、抗議の焼身自殺を次々とし、また、乳児用の粉ミルクを飲んだ
赤ん坊の胸が膨らんだ事件は、現在の中国国民のもっとも関心の及
ぶところだというのに、今回の尖閣諸島沖の衝突事件を逆手にとっ
て、当局への不満をかわすために、反日感情をあおって、国民の士
気を高めようとするところは、なかなかたくみである。
尖閣諸島沖の衝突事件も、じっさい中国国民がどれほど知っている
のか解ったものではない。
日本に伝わる映像、報道は、全て中国当局の管理下にあり、意図す
るものだということを、私たち日本人は、まず理解しなければならない。
今回の事件で、更に愕然としたのは、日本のマスコミが押し掛け
て、一般中国人に向けて、カメラやマイクを向けて、この事件をど
う思うかなどと、手当たり次第に質問したことだ。
中国内だけではあきたらず、日本を旅行する中国人や、沖縄にまで
おしかけて、沖縄在住の中国人に、この質問を繰り返した。
これは、マスコミの暴力に他ならない。
日本のマスコミは、いつもこういう幼稚な行動にでる。
彼らと、漁船の衝突事件とは、なんの関係もないのに、同じ中国人
というだけで、カメラやマイクをむけて、自分たちの正義を振りか
ざそうとする。
私は、同じ日本人として、とても恥ずかしくなった。
ましてや、沖縄在住の中国人なら、もっと複雑な感情を抱いている
のは、解りきったことではないか。
グーグルの中国内の撤退からもはっきりと解るように、中国政府へ
の不満や不平を堂々と国民が主張できる国家体勢など、現段階の中
国では、まだありえない。
ネットの書き込みは、常時、当局にチェックされている。
望ましくない書き込みは、そっこく削除されてしまうのが、いまの
中国の現状だが、それでも、このネットがもたらす影響が、当局へ
の不満を増殖させていることから、中国政府が手を焼いているの
も、また現状なのだ。

明日からの臨時国会でも、きっと、この後手後手に回った政府の対
応に、国会では追及責任の手を緩めないだろう。
だが、出来ることなら、責任問題を後回しにしてでも、今後の対策
など、建設的な話し合いをしてほしいものだ。

沖縄は、常に危険にさらされている。
尖閣諸島の周囲だけではおさまらず、そのうちに、沖縄も自分達の
領土だと主張してくることだって、先々はありうる話で、そのよう
な事態が及んだ時に、どのようにかわし、どのように対処するの
か、そのためのシミュレーションは必要枠であるけれど、日本の狭
い領土を守りきるためには、やっぱり見せるための軍力が、そろそ
ろ必要なのではないかと、感じた。
このままだと、この国の将来は、とても危うい。
「フジタ」の残りの社員が、一日もはやく釈放されることを、いま
は願うばかりである。

コラムニスト●プロフィール
……………………………………
赤松亜美(あかまつあみ)
北海道在住

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