2009年10月15日木曜日

連載コラム130 from 台湾

10月9日、本年度ノーベル平和賞受賞者の発表が行われ世界がわいた。

なんと今年1月に就任したばかりの米オバマ大統領が受賞したのである。

世界中のメディアは最初このニュースを好意的に報道。
祝福ムードが流れたのだが、ここに来てアメリカをはじめ世界各国から本音的リアクションが出てきている。

よく受賞している米大統領
実は、アメリカの大統領はノーベル賞と縁がかなり深い。

日露戦争をめぐり両国の講和を仲介したとして
セオドア・ルーズベルト元大統領が受賞したのをはじめ、

世界平和に尽くしたとしてウッドロウ・ウィルソン元大統領、
ジミー・カーター元大統領が平和賞を獲得。

元副大統領のアル・ゴアも受賞している。

平和賞は、特別「政治色が強い」という印象を受ける人は
多いだろう。

「アメリカは世界一強い国で抵抗できない」と、
卑屈にとらえることもできる。

アメリカは世界一強い国
アメリカが世界一強い国であるというのは
経済的ではなく、もちろん軍事的に最強という意味である。

最先端の武器を開発、生産し続け「勝てない」という印象を植え、
その上で、これらの武器を日本を含む各国に高額で輸出。

「軍事的に強いから守ってあげましょう」と、世界各地に基地をもうけ
世界中をアメリカ支配下においているといっても過言ではない。

抵抗した国は、こてんぱんにやられ、秩序も何もかも滅茶苦茶にされ
見捨てられる。

アメリカに唯一勝った(引き分けのような状態であるが)ベトナムでさえ、
今なお安定しておらず、いまだにボートピープルが存在するほどだ。

もちろん世界平和のため、と志を高くもった米軍兵士もいるし、
莫大な数の兵士が戦死しているという事実もある。

しかし、軍や政治家などトップの人たちが、そんな純粋に
「世界平和」を考えているわけはないだろう。

911後、テロとの戦いを掲げたアメリカにあの国連でさえ反対できず
しぶしぶ認めるしかなかった。

もし、日本が皆が反対する声を聞かず、自国でテロがあり大勢の人が
死んだからといって、戦争をふっかけようとしたら国連で多いに叩かれ
世界からつまはじきにされるだろう。

そう、強いアメリカには全世界が従うしかないのである。

ノーベル平和賞の意味
ノーベル賞とは、ダイナマイトを発明し莫大な財産を手にいれた
アルフレッド・ノーベルが、自分の発明したダイナマイトにより
大勢の人が命をおとしたことに心を痛め、

「毎年、その前の年に人類のため最大に貢献をした人々に
遺産を分けたい(正確には基金の利子となる)」

と遺言したのを実現したもの。

科学の分野での受賞ばかりが目立つ日本人の中にも
平和賞の受賞者がいる。

非核三原則を唱えた元内閣総理大臣の佐藤栄作である。

受賞するには、基本的に「平和のために命をかけてつくした」というのが
キーワードになっているように感じる。

無言のプレッシャーなのか
なぜ、今年ノーベル平和賞受賞がオバマ大統領におくられたのか。

確かにカリスマ的人物であるし、心をうつスピーチも行う。
核を世界からなくそう!と公言もしている。

しかし、彼はまだ何一つ実現していないのである。
アメリカには核はまだ沢山の存在するし、
核兵器の開発だってまだ停止していないはずだ。

「オバマ大統領の今後に期待して」
という見方が強いが、期待などどそんな漠然とした理由で
栄誉ある賞をおくるわけはない。

きっとこれは、世界の権威者たち、億万長者たちが
世界を統一するといいながら混乱し続けてばかりいる、
アメリカへ出した大きな警告なのではないだろうか。

無言のプレッシャーにオバマ大統領が耐え
果たして核のないアメリカを、世界を実現へと導くことができるのか。

これからがショーの始まりといったところだろう。



▼▼▼ from TAIWAN Pics ▼▼▼
写真は台北中心部を流れる川。可能な限り自然のままで、というコンセプトがいかにも台湾らしいです。

コラムニスト●プロフィール
…………………………………
岩城 えり(いわき えり)
1971年12月東京生
オーストラリアで学生時代を過ごし
アラブ首長国連邦・シンガポールで就職
結婚し帰国したものの夫の転勤のためすぐに渡米
2005年12月より台湾在住

2009年10月1日木曜日

連載コラム129 from 台湾

8月30日、第45回衆院選が行われ即日開票された。
結果は、予想通り民主党が圧勝。
長年日本の政治を取り仕切っていた自民党から政権を奪い
日本のメディアは「新たな政治の幕開け」
「日本を変える政権交代」と大々的に報道した。

しかし、一部海外メディアは「政権が変わった」とはいえ
その民主党の上層部の多くは元自民党員であったこと、
「はっきり言って、民主党は寄せ集め党ではないのか」
「チェンジは、あまり期待できないのではないのか」
と報じていた。

オバマの二の舞い?
国は異なるがアメリカのオバマ大統領率いる新政権も
「アメリカ初の黒人大統領」「これまでにないタイプの大統領」
という点から、就任時は大きな期待が寄せられていた。

しかし大統領就任から8ヶ月が過ぎた今。
景気対策、医療保険対策などが不十分である、
期待外れだ、として支持率は減少し続けている。

熱しやすく冷めやすく、そしてマスコミに踊らされやすい
日本人相手の民主党新政権も、すでに
「公約を守りそうにもない」「あまり期待できそうにない」
などの声が早くもあがっている。

公約をきっちり守らなかったり、国民の負担が激増したり、
日本の「お上」システムが何も変わらない場合、
オバマ政権の二の舞い、
もしくは、それを超えるレベルで国民から叩かれるのではないかと
思わず危惧してしまう。

冷ややかな海外メディア
今月に入り、首相に就任した鳩山由紀夫首相は国連総会へ
出席するためニューヨークへ飛び22日には国連で開かれた
気候変動サミットで英語のスピーチをした。

このスピーチを日本のメディアは絶賛。
流暢な英語で各国からも高い評価を得たとしている。

確かに首相の英語は理解できる「きちんとした」英語であり
危なげなげなく、恥ずかしくなく、聞けるものであった。

しかし、内容的には、正直言ってさほど評価されてないのでは?
という印象を受けた。

欧米のメディアをはじめ、アジアのメディアも首相のスピーチを
それほど報じていなかったからである。

「日本にしては珍しく、分かる英語が話せる」
くらいの扱いであった。

発展途上国の首相や大統領は、海外への留学経験があるからか
大抵、問題なく英語が話せる。

世界の共通語である英語が話せるのは「別に普通」のことであり
「日本の温室効果ガス排出量を2020年までに25%削減する」
という目標を掲げたのは立派だが、あくまで目標であり、

コロコロ首相が変わる日本で、この目標がいつまでキープできるのか
海外メディアは至って冷ややかなのである。

国民が求めること
どこの国も、国民が国のリーダーに求めることは同じ。
「よりよい生活ができる、安心して暮らせる国にして欲しい」
だろう。

中でもアメリカ人がオバマ大統領に最も期待している部分と
日本人が民主党に一番期待している部分は、
実は同じではないのかと思う。

「この国も構造的なものを、全てひっくり返して一から直して欲しい」
「悪い膿を全て出し、国民のために最良の構造を作って欲しい」

しがらみの多い日本で、新しい首相が構造改革に成功するのかどうか。
期待を込めて見守っていきたい。
















▼▼▼ from TAIWAN Pics ▼▼▼
写真は旧暦で7月15日の折り返し時点となる9月初頭に祈りを捧げる台湾人たちです。

コラムニスト●プロフィール
…………………………………
岩城 えり(いわき えり)
1971年12月東京生
オーストラリアで学生時代を過ごし
アラブ首長国連邦・シンガポールで就職
結婚し帰国したものの夫の転勤のためすぐに渡米
2005年12月より台湾在住

連載コラム141 from 東京

テレビで、アレルギーになるのは、あまりに潔癖な生活をしてるからといってたね。昔はアレルギーというのは、そんなになかったらしい。こういうのは医者では異端扱いされるんだろうけど、なんとなくわかるというか、支持したくなっちゃうね。ただ、三浦友一は、和田アキ子にキスされて、すぐにうがいしに行ったというのは、潔癖症でなくともわかるね。ただ、だんなさんのメンツは、どうなるんだというのは、あるな。毎日、キスしてるんだろうから・・


まあ、友一さんは、百恵さんと結婚し、大スターがスパッとやめて驚かれてたけど、ああいうノリに乗ってるときに執着なくやめたスターって百恵さんだけじゃないかな。やめて奥さん業退屈になって、また出てくる人もいるけど、一切、出てこないからね。陰のつきまとう大スターという意味でも、後にも先にも百恵さんくらいじゃないか。


ウィンクなんかも陰があったけどな。全然、楽しそうでないと、我々も話してた。百恵さんなんかと違って、守ってあげたくなるような弱さで売ってたね。


テレビも、そういう陰が似合うのいなくなったね。お笑い一色というか、街歩いても流れてくる曲は、ノリの激しい曲ばっかりのような気がするね。


我々シロウトのカラオケの世界みたいだね。ああいう世界も、あんまりしんみりした曲を唄うと嫌われるというか、誰も聞いてない。


堀内さんの曲なんか、時代に合わなくなってるな。「面倒みれないくせに よく猫拾ってきた あったかい手の平 まだ覚えてる」なんていうのも、その部分でジーンがピークになるわけだけど、いまだったら流せないんじゃないかな。のら猫に餌やって、注意された老人が、相手を殺しちゃったろう。


コロッケも、顔マネは演歌の大御所中心だったけど、いまは本物が出ないからね。五木さんの早送りのマネなんか、僕らは笑えるけど、若い人は何やってるかわかんないんじゃないかな。美川さんなどは、逆に、コロッケがマネして復活させたみたいですね。


怒る人の言い分もわかるし、殺人はまずいけど、これも潔癖社会の新しい犯罪の現われだと思うよ。猫のおしっことか、においとかいろいろあるだろうけど、昔は肥えだめの便所なんかがあちこちにあって、風吹いて隣近所の糞尿のにおいなんて当たり前だったんじゃないかな。


父親がいってたけど、昔はトイレでウンチすると、ピチャって跳ね返ってきたって・・そういう時代は、多くの人が、そういう類のにおいに慣れて気にせず生きられたと思うよ。やっぱり、香水文化というか、動物的なにおいの耐性も薄れてきてるんだろうね。


さんまは、トイレでウンチして手を洗わないって、いいともで話してたのが懐かしい。ティッシュで吹くわけだから、手は大丈夫だからといって、タモリが、しみこんでついてくるからダメダメと解説してた。


自称慶大出の川○さんなんて、すごかったからね。電車に一緒に乗ると、誰も隣に座ろうとしない。しいて例えれば、同じ靴下一週間はきっぱなしみたいな強烈な臭いだったな。鼻を突く酢の臭いというか。指摘すると、怒って口利いてくれない。わざとやってるんじゃないかとも思ったね。人がいやがるのみて喜ぶというか。さすがに一緒に飯は食えなかったけど、ラジオみたいに一人でしゃべってる人で気を使わなかったな。いなくなっちゃったけど。


テレビで、天然だからとかいって売ってるけど、そういうの見てきてるから、なにが天然なのかと思っちゃうね。いもとさんとか、柳原さんとかも・・放送できる範囲内の天然だからね。出川さんなんかが、ぎりぎりだろう。テレビの世界より、こっちの世界のほうが、探せばおもしろい天然の巨匠がいると思うよ。


だけど、人間の頭も、かなり狂ってきてるよね。ネットで痴漢やりましょうと募って、何時の電車で待ち合わせるとかで、ほんとに何人も集まってくるというんだから。初顔合わせで、「よろしくお願いします」とか挨拶するわけだろう(笑)


エロビデオの世界と混同してくるのかな。ああいうのも、はじめ嫌がってた女が、段々、気持ちよさそうになって喜んだりしてるだろう。演技なんだろうけど・・それ見て、こういうものなんだって思い込むんじゃないかな。


オダギリなんかが痴漢やったら、そういう風になるのかもしれないけど。普通は、ダメだろうね。痴漢やってるようなのは、顔つきも悪くなってくるから。全身に負のオーラが出てくるというか・・オダギリでも、痴漢やりだしたら、急速に顔が変わるだろうね。


猪木と箕輪はるかのキスは、歯のかみあわせがいい・・金持ってんだから、矯正すればいいのに・・


矯正っていうのは高いんだな。保険も効かないし。日本のオバマになんとかして欲しいね。気鋭の歯医者さんが、口の中の菌を絶滅させる魔法の水を発明したなんてテレビでやってたけどね。これまでのウガイ薬では菌は残って、また増えていってしまうらしい。


このように、どの分野でも発見の余地はあると思うけどね。歯医者さんにいかなくても、自分で虫歯治せるシステムなんていうのができたら、歯医者さんは大変だろう(笑)歯石くらい道具があれば、自分で取れると思うけどね。


というか、いま繁盛してる仕事の多くって、忙しくないほど平和って仕事ばかりじゃないかな。医者とか、警察なんかもそうだし。いまは、毎日あちこちでサイレンがなってるからね。もちろん、いてくれなきゃ困るわけだけど。


昔は、サイレン鳴らして走ってる車見ると、珍しくて追っかけたりした。箱根駅伝なんかも、必ず、ランナーと一緒に走ったり、追っかけてⅤサインしてるのもいるね。ああいうのも、みっともないけど、平和の証なのかな。刑事さんなんかも、箱根駅伝の先導をやるのが夢だったなんていう人も多いようですね。これも、平和の証なのかな・・


書いてるうちに、世の中が平和なのか、そうじゃないのかわかんなくなってきたな。自分で催眠術にかかっちゃいそう。


元タフマンの稲葉の入った病院行きたかったんだ。入院費貯めてるうちに、先生がやめちゃった。あれは、監督に薦められたんだろう?金出してもらったんだろう?一緒に入院してたら、今頃、友達になれたかもしれないのに・・


あの病院は、知る人ぞ知るというか、マニアの間では有名だったわけ。


赤木さんなんかも、あそこに入院した直後に、グアムイヤンオープンで優勝したらしいし、御曹司なんかも、さわやかブルドンで、8位に入ったんじゃなかったかな?


前に話した職場の隣席にすわってた先輩が、やっぱりそこに入院して、何やったか教えてくれって聴いても、絶対教えてくれない。そういう風に言われてるからって。


ある日、その病院のことネッシーが、週刊誌に話してた。すごい先生がいるとかって・・それで、なにやるのかちょっとだけ書いてあって、先生の目を5時間くらい見続けるって。


なんでも時代の先いってたって先週話したけど、日航のトップにだって前原さんより先に会ってたね。柳田っていう日航の創業社長だけど・・正座会っていうのに毎週来てた。じいさんばあさん30人くらいの中に若いのは自分だけだったけど、「君は肩に力が入りすぎとる」なんていわれたよ。


当時、引退して相談役になってたとはいえ、会費500円の公民館の名もなき人たちの集まりに、要人が、毎週まじめに通ってくるんだから、すごいといえばすごい時代だった。


王さんが40本ホームラン打たないとスランプといわれ、謝罪したらしいけど、追い求めてるものが違うというか、そういうところに平気で来そうですね。


高橋まり子は、「歯がゆいのよ、その唇 キスする場所 間違えてる・・」と、うたってたけど、これもマジメな顔して大胆な歌だったな。


もっくんも、アメリカで賞とって、ついつい悪口いってしまったけど、ウエンツさんも、なんか痩せてきたけど、大丈夫かな?あゆとか、あややの健康的な太ももが懐かしいですね。


サザンのスキップビート、「腰をからみつけ スキップビート スキップビート スキップビート」って詞。


早口でいうと、「腰をからみ スゲエ すけべえ すけべえ すけべえ」って聞こえる。ファンをからかってるんでしょう?(笑)テレビで卑猥な表現やめろと苦情きても、これなら言いわけできる。


僕はロマンチストじゃないからね。マチャミなんかも、ロマンチックな言葉はいてもらうこと、期待し
てるらしい。年上のくせに・・


リアリストになるほど、ロマンチックなものから離れていくわけでしょ。辻人生さんの小説は、読んだことないけど、フランスの奥さん方の賞かなんかもらってる?ロマンチックな言葉、吐いてるんじゃないかな。


釈迦が出家して、立派な青年だということで、是非、美貌の娘をもらってくれと頼まれた。だけど、美貌だろうと、所詮、女というのは、一枚皮をはいだら、糞尿でしかないんだみたいなことをいって、恨みを買ったらしい。数年後にその娘が、どっかの国の王妃になって、そこに釈迦が訪れて、娘がそのことを覚えていて、あらぬ噂を流して釈迦を迫害した。それで、弟子が逃げましょうとすすめたら、これはいま受けないと、どこへいっても後々引きずることになるんだといって、居座ったらしい。山本七平さんの本に出てくる。


聖人というのは、優しくてあまり激しいことをいわないと思われがちだけど、そんなことない。褒め言葉をいうことで、実は毒がまかれるんだと。


ただ、難しいのは、我々が真似しようとすると、視野がせまくなったり、不機嫌になったりする。松けんさんだったか、小雪さんだったか、コラムというのは、ねたみ、そねみ、ひがみの三みで書くといってたけど、そこが凡人と聖人の違いなわけ。聖人は、愛が基本なわけだから・・


もっとも、メドベージェフさんの国のトルストイの言うように、愛というのも、実は98%まやかしもんらしいけど。


性的なものは、まともに考えたら、不潔なものが多い。とりつかれたようにというか、夢中になって飛びついたりすると、それがわからなくなるんだろうね。


病気にしたって、たとえば、医学が発達したというけど、誤診とか、医療ミスで亡くなるケース、どれくらいあるかとか、臓器移植した患者が、どれだけ生きたとかいうようなデータも、もっと出してもいいと思いますね。ドクさんなんかが、子供を授かったのも、現代医療のお陰なんだろうけど。河野さんも、お父さんに肝臓移植した。


コラムニスト●
…………………………………………………………………
森田益郎


 

連載コラム247 from 北海道●北陸の旅・11

金沢城公園、兼六園と駆け足で回った割には、時間も相当費やし、長屋武家
屋敷跡を見終わった頃は、すっかり日も陰っていた。
まだ見たりない気持ちの私は、心残りがあるものの再び東茶屋街へと戻る。
茶屋街を最初に散策するはずが、山へと歩いてしまったから、すっかり
後回しにしていたのだ。
東茶屋街で再びバスを降り、早足で歩き出した。
通りがやけに静かだ。
店がそこもかしこも閉まっているように思うのは、気のせいなんかではない。
この辺りでは、店を閉めるのも早いらしい。
漸く見つけた土産物屋に駆け込むように入った。
何か欲しい、買っておきたいと、棚に並べられた品に目を走らせた。
瀬戸物の珈琲カップのセットとマグカップに目が止まる。
紫陽花の花模様が素敵だった。
マグカップは、なんだろう、一輪花がいっぱいに描かれているけれど、
何となく元気が出る色彩で、形も斬新だった。
どちらか欲しいなぁという気分。
どっちを買おうと、悩みひたすら思案する。
この土産屋も、当然閉店間際だった。
そこへ、血相を変えて飛び込んできた私が、ひたすら棚の商品を見回し、
カップを手に取り、裏を返したり、真剣に選ぶ姿は、ちょっと自分で
想像しただけでも、余裕のなさが丸出しだ。
買わなければならないオーラを出しまくっていたから、店の人はこんな私に
苦笑してしまったかもしれない。
「それね、値引きしてあげるよ」
怖い顔で思い悩む私に、店のご主人が声を掛けてきた。
他に女性の店員が一人。
雇われているのか、それともご夫婦なのか、兎に角小さな店で仲睦まじく
働いておりました。
きっと私なんてほっといても何か買う客だったと思います。
でも、店のご主人は、顔を綻ばせて「値引きしてあげるよ」と言ってくれた。
「ひとつ、1800円だけど、ふたつで3000円にするよ」と。
買うなら、ふたつ欲しいもの。
金沢の記念に、是非欲しいのです。
きっと、心の中を見透かされたのかもしれない。
なのに、安くしてあげるだなんて、なんて優しいのでしょうか。
珠峰九谷と底に印されたカップをふたつ手に取る。
「これ、ください。これ、買います」と、笑顔でご主人にカップを渡した。
たわいのない会話をしながら、お代を払い、急に思い出したように
切り出した私は、「そう言えば、この辺りでどこかお勧めのお食事出来る
店ってありますか?」と、尋ねた。
昼食を抜いて散々歩き回ったので、もうすっかり腹ぺこなのだ。
なんでもいいから、何処かで食べなければならないのです。
なにせ、本日お世話になる民宿では、朝食は付いているんだけど、夕飯はナシ。
当然です、この辺りは素泊まりが普通なのです。
「なあに? ひとりなの?」と不思議そうに私を見るご主人。
「はい、ひとりです」と私。
「洋食でいいのかい?」
「ええ、洋食でいいです。高くない気さくな店がいいんですけど」と
即答したけれど、この時も、私は十分せっぱ詰まった顔だったに違いない。
「それならすぐそこに来来軒っていう店があって、そこは僕たちもよく
食べに行くんだけどね、カレーなら1000円だし、安いよ。後はねぇ、
表通りに出たらビストロって洋食屋があるんだけど・・」
ジャズが掛かっていてちょっと雰囲気がある店だとご主人が説明する傍らで、
女性の店員が僅かに渋い顔をつくり、「でもあそこは、ちょっと・・」と
何か言いたげだった。
1000円のカレーライスが食べられる来来軒は、この店のすぐ先に
あるのだという。
そこでいいではないか、カレーライスで十分です。
カレーを頂きましょう、決定です!
包装して貰った品を受け取り、私はお礼も早々に店を出て来来軒へと歩き出す。
すぐに見つかる。
しかし、ようすがどうもおかしい。
店の電気が消えていて、暗いのだ。
入口のドアに、『月曜日・定休日』と書かれた札がぶら下がっている。
なんで? と愕然とする。
これってないよなぁと項垂れる。
こっちは、腹ぺこなんだけど・・と私はトボトボと歩き出した。
茶屋街の入口、車道で隔てられた通りまで出ると、橋の向こうにちらほらと
灯りを灯した店が川沿いに並んでいた。
のれんを下げて、どこか気品が漂う店たちに、誘われるように歩き出す。
店の前まで来て、中をちょっとだけ覗いた。
どうにも、高級な雰囲気だ。
何件か覗いて回るうちに、どれもが割烹料理の店だと気付いた。
お品書きの看板に、6000円、8000円と書かれてある。
一人で割烹料理はないでしょ、と苦笑。
酒も飲めないんだからと、尻込みした。
日も暮れた空は微かに西の空を染め上げ、川沿いに立ち並ぶ料理屋が
店先の照明に灯りを灯し、のれんが風に揺れていた。
美しい。
だから、少しだけ川沿いを往復し、橋の欄干にもたれて眺めた。
それから、土産屋で聞いたビストロを探した。
外観が煉瓦で趣きのある店・ビストロは、車道に面したところに建つ
ちょっと大きめな店である。
重厚なドアを押し開けると、ジャズが響いていた。
客はいない。
天井が高く、きっと以前は何かの建物として使われていた物を、そのまま
レストランにしてしまったような感じだ。
奥にカウンター席があり、窓や壁側には、ソファとテーブル席が設けられてい
る。
若い女性のウェイトレスがやってきて、席を案内してくれた。
着物を制服代わりにしているようなんだけど、ちょっと洋風にアレンジして
着崩しており、外国人が見よう見まねで纏った感じである。
でも、かわいい感じの女性だ。
手渡されたメニューを見ると、想像したより高かった。
どれも洋食で美味しそうなんだけど、少しばかり高いのです。
それで、比較的その中ではランクの低そうなパスタを選びました。
なんとか蟹のスープパスタっていうヤツに、珈琲を頼んだ。
「食後にデザートはいかがですか?」と言われ、「それじゃあ」とデザートを選
ぶ。
腹がへりすぎて思考がすっかり乏しい私は、勧められるままでした。
ジャズの音色が心地よい。
ひとりで貸し切りなのも、また心地よい。
散々歩き回ったし、ソファに座り込んだ途端、疲れが噴きだしのでしょう。
ぼーとしてました。
やがて、地元の常連らしい男客がひとりいらして、カウンター席で飲んでまし
た。
男客、中年ふう。
と、いう私もひとのことなど言えませんが。
蟹のスープパスタは、驚くほど美味で、蟹の出しが良く出ていて、
こんなパスタは食べたことがないと本気で感動した。
きっと、お腹がへっていたことも美味しく感じた理由のひとつなのだと思うが、
普段それほど好んで食べない蟹をこの時は珍しく選び、そして目が丸くなる
ほど驚いたのだ。
小さなワタリガニのような蟹がパスタに絡み、スープに浸されている。
蟹って美味しいんだと、今更のように心の中で称賛した。
ところで、私が何故蟹をあまり好まないのかというと、面倒くさいからだ。
蟹が料理に出て来ただけで、みんなもくもくと蟹と格闘するし、
蟹の殻剥きが好きではないからである。
美味しいとは思う、それは当然なのだと思う。
だけど、例えば職場とか何かの宴会で料理に蟹が並んだだけで、私はちょっと
敬遠しがちだ。
蟹をもくもくと食べる人たちに挟まれても、涼しい顔で煮魚なんぞを食べちゃう
わけです。
それをいい振りコキなのだと、夫にはなじられる。
「あんたは、ブルジョアなのね」ともっと何か言いたげだ。
「あれ、どうしたの? 蟹きらいなの?」と私の皿を覗いて不思議がる上司に、
蟹を剥くのが苦手なのだと打ち明けたばっかりに、上司に蟹を剥かせ、
同僚たちには、白い目で見られても、私はやっぱり人前で蟹を食べることを
恥じていた。
なんか、野蛮な感じがするんですね。
それを、人前でさらしたくはない、それだけなのですが・・・。
それにしても、美味しい物を食べた後って、幸せです。
お腹も心も満たさせて、幸せこの上ない気分。
その気持ちのまんま、民宿へと向かいました。
宿に戻ったのが遅かったので、民宿の女将さんには、「まあ、ずいぶんと
ゆっくりとされていたんですね」と驚いていたけれど、それでも充実した観光で
した。
満足した気分です。
宛がわれた部屋は、二階の小部屋で、床の間も入れて四畳半ほどのつくり。
宿泊客がそれなりにいるのか、私の隣部屋にも先客がいました。
壁板が薄いのか、室内の音が響きやすく、だから物音を立てることも、テレビを
付けることも憚られた。
窓を開けると、ベランダがあって物干し竿が掛かっていて、洗濯物が僅かに
干されている。
それにしても、なんという静けさだろう。
古い家々が密集した地帯に、みんなひっそりと暮らしている。
網戸から覗く家の中でも、テレビの音も人の話し声も聞こえてこない。
誰もが気遣いながら、何かを守って暮らしていた。
民宿で銭湯の券を貰った私は、借りた洗面器を抱えて、渡された地図と格闘して
茶屋街を歩く。
そして、またしても迷う。
地図の示す場所へ行き着かない。
それでも、夜の茶屋街で、何とか人を見つけ、目的の銭湯を訪ね、
辿り着けた私は、借りて来た猫のように大人しく湯船に浸かっていた。
銭湯の利用客は圧倒的にお年寄りが多いここでは、誰もが普段着の顔で、
見知らぬ人が交じっても、別段気に掛ける様子もない。
それが、この辺りの作法とでもいわんばかりだ。
茶屋街の民宿に泊まり、ここの銭湯を使わせて貰う私は、この街の作法や
生活、いろんな物をちょっとだけ参加させて貰ったように感じた。
客扱いしない。
有りの儘の茶屋街をまるごと滞在した客にも、感じて貰う。
それが金沢のおもてなしで、それこそが茶屋街のおもてなしなのだろう。
風呂にゆっくりと浸かり、番台のお婆さんにお礼とおやすみを言って、
夜風に当たりながら、私は川岸へと向かった。
なだらかな土手に腰を下ろし、川のせせらぎに耳を傾ける。
川向こうののれんを下げた料理屋から背広を着た客が出てきて、その後から
着物姿の女将らしき女性が丁寧に頭を下げて客を見送っていた。
静けさの中では、時間までもがゆったりと流れ、それは私の住む町からは
想像もつかない景色だ。
古風な暮らしに焦がれ、そこに浸りたい一方で、きっとそれが自分には
とても不向きなことも自覚させられてしまう。
みんなが共同で守り生きる暮らし方は、少しだけ窮屈でのびのび出来ない
不便さがあるからだ。
それに反れることなど、認められない厳しさも感じていた。

それでも、私はまたここに来るだろう。
また、城下町を歩き、この茶屋街を訪れると思う。
着の身着のままで、現代の暮らしにどっぷりな自分を戒め、古風な清さに
浸るために、また来るのだろうと思った。

短い北陸の旅は、終わった。
あれだけ晴天に恵まれていたのに、北海道に帰る日は、朝からどしゃぶりであ
る。
やっぱり旅はいいものです。
そしてひとり旅も、いいものなのですね。
                         <完>

コラムニスト●プロフィール
………………………………………………………………………………………………
赤松亜美(あかまつあみ)
北海道在住