2013年2月6日水曜日

連載コラム321 from 北海道●シリアの内戦に思うこと


NHKで放送された「映像記録 市民がみつめたシリアの一年」をみた。
シリアの内戦から真っ先に思い浮かべるのは、ジャーナリストの山
本美香さんである。
昨年の8月にシリアでの取材中、突然政府軍の銃撃によって殺害さ
れた女性ジャーナリストだ。
あの時も、山本さんが記録し続けた映像と共に生々しい最後の映像
が公開された。
世界の紛争地を自らの足で歩き、市民の声をひろい、世の中に伝え
続けた女性。
彼女の命を掛けた活動から、シリアの悲惨な現状を知った。
混迷する中東で起こっている現実が、山本さんの死を通して、遠い
世界の出来事ではなくなったあの日。
それでも、この悲惨な現状にただ祈りを捧げることしかできない。
シリアの人々に一日も早い春が訪れることを願って手を合わせるこ
としかできなかった。

「市民がみつめたシリアの一年」は、ショッキングな映像が続いた。
無差別に市民が殺され続けている映像だった。
大人も子供も無差別にだ。
血まみれになった瀕死の子供たち。
路上に転がる死体。
叫び、動揺する撮影者の声と共に逃げまどう人々の悲鳴が続き、モ
スクまで砲撃される。
空爆がおこなわれ、クラスター爆弾も使われた。
現在シリアでは、外国人記者の入国をいっさい遮断している。
昨年の7月にシリアへの制裁について国連安全保障理事会で話し合
いがもたれたが、その時ロシアと中国がこれを拒否した。
人権問題となると、ロシアも中国もそこは苦しい。
自国の内情をそれぞれに抱えている両国にとって、国連がお墨付き
の国際介入など、どうあっても前例をつくるわけにはいかないからだ。
その後、アサド政権は、国連に停戦の約束をしたが、実際にはその
約束も反故にしている。
政府軍の戦車は街にとどまり、市民を殺し続けた。
それでも、政府軍から離反した兵士たちが、自由シリア軍を結成し
て市民と共に戦い続けた。
彼らは、もう後戻りなどできない。
革命を信じて、命を捧げても自由をつかみたい、ただそれだけなのだ。
子供を殺され、それまで銃を手にしなかった人々までもが銃を手にした。

今年に入って、シリアに対するロシアの風向きが変わった。
伝わる報道では、それまでアサド政権を支援し、武器の供給も行っ
ていたロシアが見限ったというのだ。
自由シリア軍は、ダマスカス中心部からわずかな距離にあるパレス
チナ難民キャンプを制圧し、アサド政権の崩壊も、もう時間の問題
である。
シリアには確実に革命が訪れるだろう。

それでも、リビアやエジプトで今もなお続く、人々が自由を手にし
た後の苦難に思いを馳せると、どこか暗い気持ちが押し寄せてくる。
革命は、幾度となく繰り返されるのだろうか、と思ってしまうからだ。
いま中東で起こっていることは、確実に間違いなくイラク戦争のひ
ずみである。
独裁政治で国を統治してきた支配者たちは、イラク戦争でフセイン
が倒され処刑されたことにおののき、自分たちの国でもデモを徹底
的に弾圧してきた。
リビアで殺害されたカダフィも、いま岐路に立たされているアサド
大統領も。
すべての始まりはイラクからである。

中東のすべてに、イスラム社会に、世の中に、真の平和が訪れるこ
とを願ってやまない。血で血を洗うことが、これ以上繰り返されぬ
ことを。

シリアの人々に平和を。
彼らがのぞむ自由を。
そのことを心から祈ります。




コラムニスト●プロフィール
……………………………………
赤松亜美(あかまつあみ)
北海道在住

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