2012年7月15日日曜日

連載コラム314 from 北海道●美しき山田五十鈴さん


山田五十鈴さんといえば、テレビドラマでお馴染みの『必殺シリー
ズ』が、どうしても思い出される。
三味線で小唄をうたう姿は、凛として美しく、おしょさんそのもの。
バチで、悪人を殺す姿も艶やかな限りである。
中条きよし扮する三味線屋の勇次の母親・おりくである。
この二人は、実に色っぽく、テレビ画面から匂い立つような錯覚を
こちらに与えてしまうほどの色気をもつ親子だった。
かの必殺ドラマにこの親子が登場するだけで、なんとも色艶があ
り、華やかさを感じたものだ。
切れ長の流し目でアップになれば、惚れ惚れするほど美しい中条き
よしは、どこからどう見たって、山田五十鈴とは親子そのもの。
それほどのはまり役で、印象深い。
長者番組としてヒットし続けた必殺シリーズは、本当によく出来た
時代劇だったと思う。
その時々の風潮をさりげなく取り入れ、時代劇としての古い殻を打
ち破り、いつも斬新で新しさに満ちていたハードボイルド娯楽時代
劇である。
ハードボイルドは、格好いいが当たり前だけど、きっとそれだけで
はないのだ。
心も強くしてくれる、そんなふうに思えてならない。
子供の頃から、必殺ドラマが好きだった私としては、このドラマで
育ったと言っても、言い過ぎではない。
学校から帰るなり、ランドセルをほうり投げて、夕方の再放送に夢
中だった。
その大好きなドラマの延長線上に、山田五十鈴さんもいた。
雅な立ち振る舞いや美しさは、山田五十鈴さんこそ天下一品。
あまりに美しすぎて、少しずるい、なんて気持ちにもなったものだ。
そして、美しいと言えば、京マチ子さんもどこか忘れがたい印象である。

いつだったか、勝新太郎の『悪名シリーズ』に、五十鈴さんの娘・
嵯峨美智子さんが出演されていたのも観たけれど、母親に負けず劣
らずの美貌と色気だった。
山田五十鈴さんも、女優としては、とても良い時代に花を咲かせ続
けた役者さんだったのだろう。
戦後の成長期に作られた日本映画やテレビドラマは、あらためて鑑
賞するほどに、勢いと活気に満ちている。
放送倫理の縛りもなく、自由で元気そのもの。
おこがましい発言ではあるが、役者さんに限らず、そういう時代
に、制作にたずさわれた人々は、なんて幸福なのだろうと想像して
しまう。
映画バカが、山ほどいたからだ。
今は、あの頃より元気がなくなった。
映画はともかく、いつからか、お茶の間のドラマはほどほどのもの
ばかり。
可もなく不可もなく、視聴者からの苦情を気にするあまり、制作費
は掛かっているはずなのに、つまらないものが多い。
時代劇でいえば、制作費の事情もあって、NHKまかせになった。
それに、国産ドラマより、今では海外ドラマの放送枠が多い。
日本のテレビ事情に限らず、今やアジアでは、そういった形での輸
入ドラマの放送が多くなってしまっているので、あまり文句もつけ
られないけれど、この多さにはどこか危機感を抱かざる負えない気
持ちである。
ドラマは自国で作るより、輸入したほうが得だなんて、そんな損得
勘定が見え隠れしてならないからだ。
放送倫理については、総務省の管轄だろうから、お上の事情はわか
らない。
でも、テレビドラマにもっと自由をあたえて、面白くしてほしい。
いち視聴者のささやかな願いである。

山田五十鈴さんの若い頃の作品は、あまり観てこなかった。
それだからか、これからでも五十鈴さんを偲んで、少しずつでも観
てみようと思います。
山田五十鈴さん、どうぞ安らかにお眠りください。
楽しい娯楽作品をありがとうございました。
心よりご冥福をお祈り致します。



コラムニスト●プロフィール
……………………………………
赤松亜美(あかまつあみ)
北海道在住

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