2012年7月3日火曜日

連載コラム313 from 北海道●さようなら、ちいさん


突然の訃報だった。
俳優の地井武男さんが亡くなった。
本当に驚きだった。
ここ数年は、ローカル旅番組の『ちい散歩』で、お茶の間の人気者 
だった地井武男さんだったが、残念なことに、私はこの番組を見て 
いない。
北海道では放送がされてなかったからだ。

ちいさんと言えば、やはり名脇役という印象が強い。
主役を押し上げる、安定感のある脇役の役者さんである。
それとなく刑事役も多いように感じるけれど、やはりドラマ『北の 
国から』の中畑のおじさん役は、いつまでも印象深く忘れがたいものだ。
倉本聰さんの『北の国から』は、国民的なドラマだった。
視聴率も高く、ファンも多かった。
それゆえに、ドラマが終了したあとも、ドラマの舞台となった富良 
野を訪れる旅人も多い。
あのドラマによって、富良野のイメージは、がらりと変わったのだ 
と思う。
もう、何十年も前の話になるが、大阪に住むいとこがひょっこりと 
遊びに来たことがあったが、滞在中に、どうしても富良野に行きた 
いと言い出した。
その頃の私は、まだ社会人になりたてで、実家暮らし。
私の実家のある町から富良野までは、なかなか遠かった。
車で走るとしても、相当な距離である。
免許を取り立ての私には、富良野までのドライブは、まだ自信がな 
かった。
だから、いとこには断ってしまったのだが、そうしたら、彼女はひ 
とりで行くと言うのだ。
いとこは、電車を乗り継いで、ひとりででも富良野に行くと言って 
きかない。
私も家族も、これにはすっかり慌てて、「この次は必ず連れて行く 
から」と彼女を何とかなだめすかし、富良野行きを踏みとどまらせた。
都会の人にとって、雄大な北海道は、憧れのイメージが強いのだろう。
ましてや、『北の国から』の大ファンであったいとこにとって富良 
野は、特別だったのだと思う。
どうしても訪れてみたい場所だったのだろう。
けれども、富良野は、電車でたやすく行ける観光地ではない。
若い20歳そこそこの女の子が、ふらりと出掛けていって探訪でき 
るところではなかった。
行ったところで、帰ってくるのも至難の業である。
車での移動が絶対的に不可欠だった。
だから、鈍行電車で富良野までたどり着けても、だだっ広い田舎で 
は、人に会うことも店を探すことも難儀なことである。
ドラマのロケ地だって、駅から簡単に行ける場所ではないから、泣 
く泣く富良野行きをあきらめたその時のいとこは、本当に落胆して 
いたが、それでも、それから数年後に、結婚をしたいとこは、自分 
の家族を引き連れて、また北海道を訪れ、車で、富良野・美瑛・旭 
川をたっぷりと周遊した。
『北の国から』を愛するファンにとっては、富良野は聖地なのだろう。
純や蛍や五郎さんや、中畑のおじさんの姿までも、あのドラマの美 
しさと共に、色褪せることはない。
青空の下で広がる長閑なパッチワーク畑もラベンダー畑も。
五郎の家や麓郷の森だって、いつまでも鮮やかなままなのだと思う。

ところで、昨年他界した俳優の原田芳雄さんの古い映画には、若か 
りし頃の地井武男さんも多く出演している。
テレビドラマでお馴染みの朴素で、正義感あふれるイメージとはま 
た違い、破綻していく役どころが多いが、これらは日活ニューアク 
ション時代に制作された映画だ。

ちいさん。
あまりにも、突然の訃報に、心が萎えました。
どうぞ、安らかにお眠りください。
ちいさんのご冥福を心からお祈り致します。







コラムニスト●プロフィール
……………………………………
赤松亜美(あかまつあみ)
北海道在住

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