2013年1月4日金曜日

連載コラム202 from 台湾


クリスマスまであと1週間あまりといった12月14日。
アメリカで背筋が凍るような銃乱射事件が発生した。

事件が起こったのはコネティカット州郊外にあるニュータウン。
地元のどこにでもあるような小学校に若い男が武装して押し入り、
銃を乱射し10歳以下の子供20人を含む26人を殺害したのだ。

男はその場で自殺したと見られており、
自宅からは母親の銃殺遺体も発見されたとのこと。

動機などまだ詳しいことは分かっていないのだが、
凶器となった複数の銃は母親が「子供を守るため」「自衛のため」
購入していたものだと伝えられている。

■なくならない銃事件
今年はアメリカでは、
コロラド州デンバー郊外の映画館での銃乱射事件、
ウィスコンシン州のシーク教寺院での銃乱射事件、
ニューヨーク州エンパイアステートビルでの銃乱射事件など、
銃による大量殺人事件がとても多かった。

もちろんこのほかにも銃による殺人事件は
毎日のように発生している。

毎年3万人を軽く超える人たちが銃殺されているのである。

今回のような乱射事件が起こるたびに
「銃を規制した方がよいのではないか」という声が
一部で上がってきた。

しかし、これには強い反対もでている。
不法所持している人が多いため、自己防衛に銃を持つことは
必要だというのだ。

■銃社会アメリカ
アメリカが銃社会になったのは、訳がある。
警察が地区をきちんと取り締まれていなかった
230年前は、自分の身を守るために銃が必要だったのだ。

銃は人を傷つけるためではく、自分や家族を守るため
そういう名目で市民の間に広まっていったのである。

現代のアメリカではほとんどの州で、
銃を購入する際、身分証明を提示させることを義務づけている。
銃もシリアルナンバーをつけ、銃弾も登録されたものを
販売している。

約8000万人の人が正規ルートで銃を購入していると
報告されている。

■銃を持つ権利
銃を正規に所持する人たちは、口をそろえて
「銃を持つのは自分を守る権利があるからだ」
と主張する。

登録されていない銃は山ほどあるし、
不法に銃を手に入れた者も把握できないほど多くいる。
登録されている銃でも今回のように武器になることはある。

銃を規制してしまったら、自分の身が守れなくなる。
だから、彼らは銃規制を反対しているのである。

■難しい銃規制
オバマ大統領は今回の銃乱射事件を受け、
銃暴力の対策に取り組みたいと発言した。

しかし、アメリカではクリントンの二の舞になるだけだと
覚めた目で見ている。

1990年代に、日本の服部青年が射殺された事件などを受け、
クリントン政権が銃規制に動き出したことがあった。

しかし、この銃規制は「10年の時限立法」であったため、
ブッシュ政権だった2004年に失効。

ブッシュ政権率いる共和党議会は、
銃規制賛成派が少なかったため、このまま流れてしまった。

今回オバマ大統領が銃規制に動き出したとしても、
全ての銃を規制できるわけはなく、
おまけに10年後には流れてしまうというのである。

アメリカに住む友人の中には銃を所持してるものが
少なくない。

最近得に銃事件が多いということと、
帰還兵が精神的なトラウマを抱え銃事件を起こす
そんな可能性を考えてしまうからだという。

銃をどこまできちんと管理できるのかが
大きなカギになるとみられているのだが、
問題は山積みであり、アメリカは諦めムードさえ流れている。



写真は台湾の美しい蘭の花です。



















コラムニスト●プロフィール
…………………………………
岩城 えり(いわき えり)
1971年12月東京生
オーストラリアで学生時代を過ごし
アラブ首長国連邦・シンガポールで就職
結婚し帰国したものの夫の転勤のためすぐに渡米
2005年12月より台湾在住

連載コラム320 from 北海道●北のカナリアたち


「北のカナリアたち」は、東映が創立60周年記念作
品と命名するだけに、力を注いだ感がしみじみと伝
わってくる映画である。
きっと「吉永小百合に会いに来た」そんな思いで映画
館に足を運んだ人たちも多かったのではないだろう
か。
吉永小百合といえば、今や日本を代表する大女優のひ
とりでもあるし、長年日本の映画界の第一線を走り続
けてきた人でもある。
吉永小百合が持つ、清くて正しくて美しい女性像は、
彼女が出演してきた映画から受ける印象そのものだ
し、役どころを越えた人間性や人間力も、私たちが彼
女に抱くイメージそのもの。
「潮騒」や「青春のお通り」や「君が青春のとき」、
「ひとりぼっちの二人だが」や「キューポラのある
街」など、数々の映画に主演、出演する若かりし頃の
吉永小百合は、真っ直ぐでへこたれず、それでいてみ
ずみずしい。
「青春の門」では体当たりの演技が圧巻だった。
「母べえ」や「おとうと」など、近年の作品も吉永小
百合は本当に素晴らしいかぎりだが、外見の美しさと
共に内面から滲み出てくるよどみない美を感じずには
いられない女優さんである。
だからこそ、映画「北のカナリアたち」は、吉永小百
合の映画でもあるし、阪本順治監督の力量の凄さを感
じさせられた映画でもあった。
映画館の客層が、若手より中高年が圧倒的に多いこと
も、この映画の撮影段階ですでに計算され尽くされて
いたのだろうかと感じずにはいられないほど、細やか
な丁寧さが細部にわたって感じられたほどだ。
今時のたたみかけるような会話で繫ぐ、間のない映画
とは全く異なる映画である。
会話やセリフのテンポや映像も、実にゆったりとした
感に、年配者が観ても、決して取り残されないよう気
配りを感じずにはいられなかった。
北海道の礼文島を舞台に、稚内、サロベツ、利尻島と
ロケで使われた景色は、雄大な大自然が見事に美し
い。
礼文島からのぞむ利尻富士やサロベツ原野は、北海道
の自然美を活かされた風景そのものだが、木村大作さ
んによる撮影ということで、これも納得させられた。
木村大作さんといえば、2009年の「剱岳 点の
記」で、日本アカデミー賞を受賞された監督である。
こだわりの強い、監督、撮影者としてのイメージは拭
いがたいが、だからこそ妥協しない映像を撮り続けて
きたのだろう。
徹底した職人、そういうことなのだと思う。

それにしても、映画のタイトルが放つ美しいイメージ
とは裏腹に、内容はサスペンスだから、このことも驚
かされた。
原作は、ベストセラー小説「告白」でお馴染みの湊か
なえの「往復書簡」。
私個人はまだこの原作を読んでいないが、どうしても
小説「告白」強烈なイメージが強く、いったいどうし
たら、湊かなえの作品をこれほどまでに温かく優しい
映画にまとめられたのかと感じてしまったくらいだ。
だからこそ、心底、阪本順治監督の凄さを感じずには
いられなかった。
阪本順治監督の作品といえば、なんといっても「亡国
のイージス」。
そして、「闇の子供たち」のショッキングな映画も忘
れがたいが、故・原田芳雄主演の映画「大鹿村騒動
記」も印象深く、作品の幅の広さに圧倒される。

子供たちの歌声が、この映画では本当に美しい。
「北のカナリアたち」を一緒に観た私の友人は、あま
りの美しい歌声に、ずっと泣き通しだった。
しかし、内容はあくまでもサスペンス。
島で起こった一つの悲しい事故をきっかけに吉永小百
合が演じる教師・川島はるの心にも、幼い生徒6人の
子供たちのそれぞれの心にも、暗いしこりが残り、ひ
とりの元生徒が大人になって引き起こした事件をきっ
かけに20年の歳月をえて、それぞれが抱え込んでい
た思いが、ひとつひとつ謎解きのように明かされてい
く。
まるで、雪深い道を踏みしめるかのように突き進んで
いくこの作品は、最後の最後まで観る人の心を掴んで
離さない。
それほどまでに質のいい映画だ。
しいていえば、この映画の事件の当事者である川島は
るの生徒・鈴木信人役の森山未來のどもり(吃音)
が、気になったくらいだろう。
昔の、例えば大映全盛期の「座頭市」など、時々ども
り役の人々が登場するが、これがどれもが素晴らしく
演じられている。
なんというか、観ていても、なんの違和感もなく、す
んなりと受け入れられてしまうから、どうにも当たり
前にうまいのだ。
それだからか、「北のカナリアたち」で森山未來を通
して、どもり役が本当はとても難しいことも改めて認
識させられたほどである。
森山未來といえば、ごく最近では「モテキ」の映画と
ドラマでも印象深いし、「苦役列車」では、かっこよ
さを見事に封印したやさぐれ度合いに、これからも演
技派として楽しみの多い俳優である。

二年の長い撮影をえて作られた「北のカナリアたち」
は、人間が持つ嫉妬や醜い感情に切り込みながらも、
深い愛情と優しさで包みこむ感動物語の大作である。



コラムニスト●プロフィール
……………………………………
赤松亜美(あかまつあみ)
北海道在住